第169話


 再び目が覚めるともう昼過ぎで、隣では凛もぐっすり眠っていた。


 起き上がると抱きしめられていた腕はもう解けていて少し寂しさを覚える。


 さらりと彼の髪を撫でてみると幸せそうにほほ笑むから、私まで笑ってしまった。


 空腹感を感じて、朝食──時間的には昼食を作ろうと凛の部屋を出る。




 ──三十分後、リビングにはいい匂いが立ちこめていた。


「──よし」

 サンドイッチとオニオンスープをテーブルに置いて、一息つく。


 ちらりと凛の部屋のドアを見るが、起きてきそうな気配はない。



 コンコン


 さっきまで自分も寝ていた部屋だけど、一応ノックをして入る。


 ベッドには枕を抱きしめてすやすやと眠る凛。


「……凛、起きて」


 肩を軽く叩いてみるけど、微動だにしない。


 だんだんと叩く力も強くなって、身体を大きく揺さぶる。


「おわ……っ、まやちゃん……??」


 のんきに目を擦ってるけど、こっちは息切れして大変だっつうの!!


「おはよー……」


 手招きするから、何か言いたいことでもあるのかと思って顔を近づける。


 するとグイッと後頭部を引き寄せられて凛の上に倒れこんだ。


「ちょい……っ」

「ぎゅーーーー」


 ……何回抱きしめられても慣れない。


 だからと言って逃げられるわけもなく。


 彼が「……ん、なんかいい匂いする……?」とリビングの方に目を向けたのと同時に腕の力が緩んだから、その隙に抜け出した。


「ごはん、作ったから……」

 乱れた髪を手ぐしで整えながら言うと、びっくりした顔になって

「ちょ、それ早く言ってよ!!」

 がばっと起き上がり、リビングへ駆けて行った。


 凛の後をついて部屋を出ると、テーブルの上に並べたご飯を見てえらく感動している様子。


「うわああ……」

 キラキラ目を輝かせている凛は、振り返って私を見ると両手を広げてがばっと抱きついてくる。


「嬉しい~!!!」

 抱きしめられたままゆらゆらと身体を揺らしてくるから頭がぐわんぐわんする。


「す、スープ、冷めるよ……?」

 舌を噛みそうになりながら伝えると、慌てて椅子に座った。


「いただきまーーーす!!」

 行儀よく手を合わせて挨拶するとすごいスピードで食べ始める。


 そんな風に喜んで食べてくれる人なんていなかったから、嬉しくて頬づえをついてそれを眺める。


「まやちゃん、食べないの?」

 凛はそんな私を見て不思議そうに聞いてくる。


「凛の食べっぷり見てるだけで、お腹いっぱいになっちゃった」


 そう言うと、凛は食べかけのサンドイッチを私の口元に持ってきた。


「はい、あーん」

 思わず口を開けると、まあまあな量が詰め込まれてむせそうになった。

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