第168話


「俺も、聞いてもいい……?」

 もう一度、頷く。


「まやちゃんは、西川のこと……どう思ってる……?」

 目を伏せ、自信なさげに呟く。だんだんと小さくなっていく声に


「イケメンな後輩」

 そう即答すると、困ったように笑った凛。


 ……なんでそんな顔すんの。


 彼は一度何かを言おうと口を開いて、やめる。



 少し考えた後、ぽつりと零した声は更に小さくて聞きとるのに精いっぱいだった。


「あいつのこと……好きに、なる……?」


 ……ああ、不安なんだな。


 そう、思った。


 彼の言葉は、きっと私が昨夜感じていた思いと同じようなもの。

 だけど私は凛とは違って、彼の不安を取り除いてあげられるような言葉なんて思いつかない。


 凛は思いの丈を素直に伝えてくれるけど、私はそんなに器用じゃない。


 「凛が好きだから」って、言えば簡単なのに、それができないのが私。


「……タイプじゃないから」

 だから、こう答えるしかできなかった。


 だけど凛はその言葉に、少し安心したような表情になる。


「……じゃあ、まやちゃんのタイプって?」

 長い睫毛が触れてしまいそうなくらい顔をのぞきこまれた。


「……頼りがいのある大人。クールなひと」


 淡々と答えると、またしょぼんと耳が垂れた子犬のような顔をする。


「それ、廉さんのこと……??」

 真のライバルは廉さん……ってブツブツ呟く。呪いをかけてるみたいで怖いんだけど。


「理想と現実は違うから」

 凛の肩におでこをつけてみると、私の落ち着く匂いがしてまた睡魔が襲ってくる。


「どーいうこと?」

 珍しく甘えたような私の行動に、ぎこちなく腕を回して抱きしめる凛。


「うるさくて、馬鹿で、単純で……アホな人を好きになるってことも、あり得るんだから」


 凛の温もりに包まれて、だんだん瞼が重くなってくる。


「……すきだよ、まやちゃん」


 その言葉を最後に、私の意識は夢の中へ落ちていった。




「俺のこと、すきに、なって──」



 ──絞り出すように発した凛の言葉は、聞こえないまま。


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