第167話




 ――朝日がカーテンの隙間から差し込む。

 その光が眩しくて目が覚めた。


 少しの間、頭がぼーっとしていたけど、見慣れない景色に気付いてはっとする。



 ……そういえば、お泊りしたんだっけ。


 恥ずかしくなって寝がえりをうつ──つもりが、身体が動かない。


「……んだよ、もう……っ」

 首だけを動かして後ろを向くと、凛の寝顔のドアップが目の前にあった。


「うわっ──」

 身体が動かなかったのは、凛に後ろから抱きしめられていたから。


 お腹に回る凛の腕を解こうとしても、寝ているはずなのに全く動かない。


 何とか抜け出そうともぞもぞしていると、凛のうめき声が聞こえた。


「んー……。まやちゃん……」

「え!?」


 起きたのかともう一度振り返ってみたけど、まだ凛からは寝息が聞こえる。


 ……寝言でまで私の名前呼ぶって。


 彼に呆れつつ、にやける口元は隠せなかった。


 凛の腕の中で180度回転して、彼と向き合う形になる。


「凛、起きて……」

 起こそうと腕をバシバシ叩くと、うっすら目が開いて何度か瞬きをした。


 少しずつ意識がはっきりしてきたのか、存在を確認するかのように私の頬を撫でる。


「……うわあ……まやちゃんだあ」

 そう、ぽつりと呟いて苦しいくらい抱きしめられた。




「朝起きて……最初にまやちゃんの顔が見れるって、死ぬほど幸せなんだけど。は~……かわいすぎる……」


 寝起きだからか、少しかすれた声にドキッとする。


「か、風邪は?よくなったの?」

 彼の胸にうずめていた顔をあげて、凛の顔色をうかがう。


「ん……まやちゃんのちゅーで、治っちゃった」


 なんて笑って言うもんだから、デコピンをする。だけどそれすら嬉しそうにする凛。


「ねえ、まやちゃん……」

 私に腕枕をして、ゆっくりと言葉を紡いでいく凛はどこか儚げだ。


「うん?」

 そっと私の髪を撫でる手が心地いい。


 思わず目を閉じると、彼はおでこにキスをして微笑んだ。


 一つ一つの凛の仕草が愛情に溢れている感じがして、くすぐったい。


「昨日、まやちゃんが……誰だっけ……?あのお邪魔虫のこと、どう思ってるか聞いたでしょ……?」


 コクンと頷く。やっぱり美琴ちゃんの名前は覚える気ないんか。



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