第165話


 ふーっと息をついて凛の方を見ると、口をあんぐり開けて驚いていた。


「……なに」

 そっけなく言い放つと、凛の顔が耳まで真っ赤になる。


「いや、え……。ほんとに!?おおおおおおお泊り……っ」


 先ほどの眠気はどこへ行ったのか、ソファーから転げ落ちそうなくらい動揺している。


「……嫌なら、帰るけど」

「や、やだ……っ」


 私の服の裾を掴んで、引きとめる。

 ……可愛いなおい。


「お、おれ……っ、すすすすきな子とお泊りとかしたことないんだけど……っ」


 あってたまるか。私にだってないわ。


「い、いっしょに、寝てくれる……っ?」

 ワザとじゃないかっていうくらい上目遣いの凛。


 いつの間にか握られていた手はぎゅっと力が込められている。


 え、マジ……?





「──お風呂、出た」


 不本意ながら、お泊りが決定して入浴タイム。


 「一緒に入ろう!!」という凛のお願いは華麗にスルーして先に入らせてもらった。


 急遽決まったことだから着替えもなくて、凛のTシャツを借りてみたけれどブカブカで恥ずかしい。


 しかも「俺の夢だった!!」とかなんとかでズボンは貸してくれずTシャツ一枚でワンピースみたいに着てる。



 濡れた髪の毛をタオルでゴシゴシ拭きながら、洗面所から出てソファーで寛いでいた凛に声をかけた。


「あ、おかえ──」

 振り返りながらそこまで言ってフリーズする。


「……やばい無理死ぬ」

 顔を手で覆う凛。足をじたばたさせて悶えている。


「なんでそんなに可愛いの」

 指の間からちらりとこちらを見て、また慌てて顔を隠す。


 ……顔、真っ赤だし……。


「……直視できない」

 と言うとふらつく身体で自分の部屋に行き、なにかを手に持って戻ってきた。


「……はい、これ」

 真っ赤な顔で視線を泳がせながら私に手渡したのはジャージのズボン。


 ……最初からそうしろよ。



 履いてみると当たり前だけど裾が長かったため、何度か折り曲げた。





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