第149話


「……もし、神永君と付き合ったら、さ。うざったい呼び出しも、ストーカーもなくなるのかな……」


「え……?」


 ……何を口走ってるんだろう、私。


 こんなこと言ったら神永君はまた勘違いするし、期待するよね。


 ──だけど、もう戻れないところまで来てしまったから。発した言葉も、気付いてしまった気持ちも。



「さっきのやつがさ、『神永なんかに』って言ってたの……ものすごい腹立った。こんなに諦め悪くて、こんなにポジティブで、こんなに一生懸命で、こんなに私のこと想ってくれる人なんて──神永君以外にいないのになって思った。さっきもね、怖くてたまらなくて、ずっと……『神永君、助けて』って心の中で叫んでたの。神永君のこと、無意識に呼んでたんだよね。そしたら、ほんとに来てくれた」


「……うん」

 私の言葉を真剣に聞いてくれる目の前の彼。


 もっと大騒ぎするかと思ったけど一応空気は読めるみたいだ。


 ゆっくりと吐き出す私の言葉を噛みしめるように、かすかに頷きながら受け止めてくれる。


 そんな彼に、もうどうにでもなれって半ば諦めのような感情も出てくる。



「……神永君の匂いは安心するし、笑った顔が見たいと思う。神永君がそばにいないとそわそわする。──ほんと、困ってるんだけど。最近、神永君のことばっかり考えてる」


 そう言いきって彼を見ると──神永君は唇をかみしめて眉を寄せ、こっちまで苦しくなってしまうくらい辛そうな顔をしていた。


 え、なんでそんな顔するの。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る