第136話



「あ、マヤ~!アレ、持って来てくれた?」

 お昼の休憩のため教室で寛いでいると、駆け寄ってくる子犬。


 球技大会のこの日、陸に頼まれてお弁当を作ってきた。別にこのお願いは珍しいものでもなくて……行事の時なんかはよく頼まれる。


「マヤはいいお嫁さんになれるよ」

 そう微笑んでおいしそうにお弁当を食べる陸を見るのは嫌いじゃないから、私は作ってきちゃうんだ。


「はい、お弁当」

 机の横に掛けてあったサブバッグから出し、手渡した弁当を抱きかかえて

「さんきゅー!」

 目を細めて笑った陸。


 ──の、後ろ。


「うわっ!凛!?」

 ただならぬ気配に気がついた陸もかなりビビっている。


 瞬きもせず無表情である一点を見つめる神永君。



 その視線の先は陸の腕の中──私があげたお弁当。


「……これ、まやちゃんの手作り?」

 そこから視線を外さず、表情も崩さず問いかけられた。

「う、うん……」


 陸はびくびくと怯えながらも弁当を守ろうと、神永君から見えないように隠そうとする。


 だけど神永君はそれを追いかけてお弁当から目を離さない。


「……陸が食べるの?」

 それ以外に何があるんだって思いながら答える。

「そうだけど……?」


 するとやっとこちらを見た神永君。


 その瞳には涙が滲んでいて、私も陸も驚いた。


「まやちゃんのばか!!」

 そう言って走り去って行った。





「──なにあの馬鹿」

 放心状態の私と陸。 


 私たちの席までやってきた愛子の言葉に二人揃ってはっとした。


「ただのヤキモチだろ」

 唇を尖らせて言う陸もチラチラと神永君が出て行った扉を見ているから、気にはなっているんだろう。


 「気にすんな」って私に向けた笑顔はどこかぎこちなくて。


「……ちょっと行ってくる」


 顔を歪めた陸に罪悪感を抱きつつも、先ほどの神永君と同じ扉を出てある場所へと向かった。

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