第137話
「──あ、いた……」
屋上のドアを開け、見えたフェンスに身体を預ける後姿。
ポツリと零れた声は、彼にも届いていたようで。振り返ったその表情はやっぱり良いものではなかった。
「まやちゃん……」
追いかけてきてくれたの?と困ったように笑った。
「──別に、いつも作ってるわけじゃないから」
言い訳じみたことを言っても、彼は「わかってるよ」って優しく答える。
「神永君に頼まれたって、作ってくるよ」
そう伝えてみれば「本当?」って嬉しそうな笑顔が戻ってくる。
だけどそれは一瞬だけで、また寂しそうに肩を落とす神永君に──どうしたものか、と頭を悩ませて思いついた一つの考え。
「神永君はお弁当持ってきてるの?」
そう聞けば
「……うん」
私と目を合わせずに頷く。
俯くその姿は拗ねた子どものようだった。
「お母さんの手作り?」
「……うん」
なんでそんなことを聞くんだとばかりに唇を尖らせる。
「じゃあお母さんには申し訳ないけど……私が食べてもいい?」
「……うん?」
そこでやっと顔を上げ、きょとんとする。
「だから、私の分は神永君が食べて?」
何が起こったのかわからない、とばかりに目を泳がせた。
「え──」
「私のも一応、手作りだからさ」
私の言葉を聞いて、彼の表情へみるみるうちに明るい表情が蘇る。
「いいの?」
上目遣いで可愛く尋ねる神永君の表情はとても生き生きと輝いていた。
「──おいしすぎる!!」
私の作ったお弁当をパクパクと口に入れ、味わう神永君。
お弁当の味も、喜びも噛みしめているようだ。
一口食べる度に顔を綻ばせるから、見ているこっちまで表情が緩んでしまう。
陸には何度も食べてもらっているからもう何とも思わないけど、神永君に手料理を食べてもらうのは初めてだから実は緊張した。
だけど、彼が褒めてくれないわけもなくて──柄にもなくホッと胸をなで下ろした。
「まやちゃんはいい“俺の”お嫁さんになれるね!」
何度も陸が言ってくれた言葉と同じ。
だけど……一言多い。
なんで「俺の」が付いてきちゃうかな。普通ドキッとする台詞のはずなのに、呆れて笑ってしまった。
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