第135話


 神永君は鋭い目でゴールを見据えると、跳びあがって大きく腕を振りボールを思い切り投げた。



 大きく弧を描いていくボール。


 

 やけにスローモーションに見えて、ここで入ったらまるでドラマや漫画だな……なんて考える暇さえあったくらい。


 無意識のうちに両手を祈るように握りしめていた私。


「──入れ……!!」


 そう呟いたのと、ピーーッと試合終了の音が鳴り響いたのは同時だった。


 そして、ボールがゴトンと音をたてて落ちたのも。


 それを見た瞬間、静まり返った観客も一気にわああっと歓喜の声をあげた。




 終了の直後、吸い込まれるようにゴールに入ったボール。


 私の祈りが届いたかのようだった。


 スリーポイントが入って、試合の結果は神永君のクラスの勝利。


 だけどこの感動的な展開にうちのクラスの観客も大きな拍手を送っている。



 ──いや、ほんとに漫画かよ。



「──まやちゃん!!見てた!?」

 息を切らして駆け寄ってくる神永君。


「うん。カッコよかったよ」

 そう笑って言うと心臓を押さえてうずくまるから焦った。


「どうしたの!?大丈夫!?保健室に──」

 彼の腕を掴んで立ち上がらせようとすると


「ま、まやちゃんが……可愛い笑顔で俺の事カッコいいって……」


 ブツブツ呟いている神永君の声が聞こえなくて「え?」と耳を彼に近付けて聞き返す。


「まやちゃん!!」

 勢いよく立ちあがった彼。


 彼に向けていた耳にいきなり大声が突き刺さってくるもんだから鼓膜破けるかと思った。


 とりあえず無事そうだったから腕を離す。顔を真っ赤にして私を見つめる神永君。


 ……これ、まずい展開じゃないか?



 未だ掴めないけど、ほんのすこーしなら読めてきた彼の行動パターン。



「──結婚してください!!」


「頭でも打ったのかお前」



 ……すいません、嘘つきました。全く予想外でした。



 試合に勝ってプロポーズとか、リアルでする人いる?

 しかも球技大会だから笑える。



 神永君のバカでかい声に観客もさらに盛り上がっている。


 ……もうこの恥さらしにも慣れた自分が怖い。


「予約ってことで……」


「するかアホ」


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