第129話


「まやちゃん、お疲れ様!!!」


 ──バイト終わり。


 マフラーを巻いて半分くらい顔が埋まっている神永君が、裏口のドアを開けると待ち構えてるのはいつものこと。


 もごもごと──でもしっかり私を労わってくれる言葉も欠かさない。


 ……自分も寒い中、お疲れだね。


「ありがとう」

 そう言うと

「どういたしまして」

 って満面の笑み。


 何が面白いのか、にこにこと笑う彼を見ていると……なんだかこっちまでほほ笑んでしまいそうになる。


 ……笑顔は伝染するって本当なのかも。


 すると、私の後ろからガチャ……と裏口のドアを開ける音が聞こえた。


「あ、マヤ先輩──と、神永先輩」


 このタイミングで出てきたイケメン新人を恨むよ。


 なんだか面白くなさそうにポツリとつぶやく西川君。だけど不機嫌なのは、神永君も同じだった。


「……まやちゃん、帰ろ」

 そう言って早くその場を離れたいとばかりに私の背中を押す。


 私もその力に押されて歩き出すけど、西川君の声がその足を止めた。



「……マヤ先輩、俺も一緒に帰ってもいいですか??」


 ──お前は空気を察しろよ!!!!!


 例のごとく、私より先に答えるのは

「だめ!!!!!」

 ものすごい速さで振り返って叫ぶ神永君。


 ……耳がキーンってなった。


「神永先輩には言ってません」


 淡々と答える西川君の言葉にますます頬を膨らませている。


 しばらく睨みあって動かない二人に痺れを切らす。


 ……しょーがないなあ。


「……悪いけど、帰りは神永君とって決めてるから」


 そう言うと、神永君は口をぽかん……と開けて私を見る。


 西川君も私の言葉が意外だったのか眉をひそめた。


「ままままままま」

「なに、悪い?」


 なんだか恥ずかしくなって可愛くないこと言っちゃうけど、それでもこの男は

「ううん、幸せ!!!!!!」

 ってまた、嬉しそうに笑うんだ。


「へ~、わかりました」

 拗ねたような表情をすると、踵を返して帰っていく西川君。


 ……うちらの帰る方向と真逆じゃねえか。





「行こ、神永君」

 ほっと一息ついて、神永君を見ると恥ずかしそうにもじもじしている。


 ……なに、トイレか?


「あのね、まやちゃん!!!折り入ってお願いがありまして!!!!」


 意を決して……というように私を見つめる無垢な瞳。


 ……え、なに。

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