第121話


「麻井さん、神永の扱い上手くなったよね」


 教室を出た瞬間、森君は感心したように私を見る。


「まあ、単純だからね、あの子は」


 思わず緩んだ口元をきゅっと引き締めたけど森君にばっちり見られていたみたいで。


「……早く付き合ったらいいのに」

 そう言う彼の言葉は完全スルー。


 もう周りから言われすぎて反論する気もないよ。



 委員会のある教室へ入ると時間ギリギリだったこともあり、ほとんどの人が席についていて空いている席にそれぞれ座る。


「じゃあ、これから図書委員会を始めまーす」

 委員長の声で教室内は静かになり、彼が黒板に書く連絡事項をメモしていく。



「ね、先輩……」

 隣で声がしたと思ったら無表情で私を見る背の高そうな男の子。

 うん、イケメンだ。


「どしたの」

「消しゴム、貸してください」


 ああ……はいはい。

 筆箱から予備の消しゴムを出して彼に渡す。


「……ありがとうございます」

 そう言ってほほ笑んだ彼に、少しきゅんとした。


 ……なんだこのイケメン


 そこからは彼と話すこともなく委員会は終わった。


「……先輩、ありがとうございました」

 そっと机の上に置かれた消しゴム。


 ……そっか、貸してたっけ。


「い~え~、どういたしまして~」

 そう言って笑いかけてみるが、じっと私を見つめる無表情な彼。


 ……何。

 それにしてもクールだな。神永君とは正反対の雰囲気だ。


 そしてどこかで見たことある……。


「先輩って──あの、神永先輩と噂の……?」

 ──おいおいおいおい。


 後輩にまで伝わってんのかよ。恐るべし、神永凛の話題性。


「ああ……そうなのかもね……」

 呆れたように言って荷物をまとめる。


「……じゃ」

 どこかで会った気がしたけどそれに答えを出す余裕もなく、これ以上詮索されないように軽く手を振って教室を出た。


「……かっこいー」

 そう、呟く彼の声は私には聞こえなかった。


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