第122話


 教室の前まで来ると中から話し声が聞こえた。


 ……陸もいるのかな??

 そう思って何も考えずに中を覗く。


 そこにいたのは私の席に座る神永君と──その前の席に座り、神永君を見て頬を染めている可愛らしい女の子。

「もー神永君ってば~」

 そう言って笑いあう二人。


 ……なにあれ。なにがクールだよ。

 なにが女子には冷たい、だよ。


 全然普通じゃん。むしろ楽しそうじゃん。


 ……やっぱり、私の事からかってたの??


 それともその子のこと、好きになっちゃった??


 なんだかやるせなくて腹までたってきて、教室から離れようとする。




「──マヤ先輩??」

 呼ばれた名前に反応して足を止める。


 声をかけてきたのはさっき委員会で一緒だった後輩君だった。

 マフラーをぐるぐる巻いてリュックを背負い、帰るところだったみたいだ。



 放課後の静かな廊下。


 私を呼ぶ後輩君の声が聞こえたのか


「え!!?まやちゃんって言った!!?帰ってきた!?」

 という神永君の驚いたような声とガタガタッと慌てて動くような音がした。


 それはやましいことがあって焦ったようなものじゃなく、本当に嬉々とした声。


 ……だけど今、彼に会いたくない。

 そう直感的に思った。


「……こっち」

 そんな私の思いを察したのか後輩君は腕をひいて教室から離れて行く。


「え、ちょっと、まやちゃん!!!?」

 後ろから神永君の声が聞こえる。


 きっと教室から出て、遠ざかる私たちの後ろ姿を見たんだろう。

 今度は慌てたような声だった。



「……マヤ先輩は神永先輩の事、好きなんですか」

 もう誰もいない図書室まで連れてきてくれて、そう聞かれる。


「君には、関係ないっしょ……」

 この質問には、答え飽きた。


 助けてもらったのは感謝してるけど、そんな誰にも打ち明けていない重要機密を初見の彼に言う必要もない。


「君じゃなくて、西川翼っていう名前があるんだけど」

 ……また、こいつも突然名乗るんだな。

 これが普通なのか?


「……はいはい、西川くんね」

 手をひらひらさせて興味なさげに答えると、ぷっと笑い出す西川君とやら。


 ……先輩を馬鹿にするなよ?


「俺、神永先輩がマヤ先輩に惚れた理由……ちょっと分かるかも」


 ……は?


 眉間にしわを寄せた私を見て、また笑いを漏らすと言葉を続ける。


「俺、結構女子から告られること多いんだけどさ」


──…出た、イケメンあるある。「自分がモテることは否定しない」。一度でいいから言ってみたいわ。

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