第109話



 ――昨日はあの後、気まずいまま帰路についた。


 神永君は何も喋らず……でもちゃんと、いつもの公園まで送ってくれた。




 帰り際、神永君がポロリと涙を零して


「わがままで……ごめんね」


 そう言ってもう一度、ぎゅっと抱きしめられたから……彼を拒絶することなんてとてもじゃないけどできなかった。



 結局、神永君を遠ざけることに失敗して、陸とも合わせる顔がない私。


 ……だけど、きっと今日は陸が迎えに来る。


 喧嘩をした時や気まずくなった時、次の日の朝は必ず私の家の前で待っていてくれるから。


 いつも、陸が歩み寄ってくれて仲直りができるんだ。


 今回のことは喧嘩じゃないけど、なんとなく陸が待っている予感がして早めに用意をする。



「いってきまーす……」


 ぐっすり眠れないまま朝を迎え、朝ごはんも喉を通らなかったけど……学校へ行かないわけにもいかない。


 いつもより重く感じる家のドアを開けた。



「──おはよ、陸」


 家の門の前で、私に背を向けて座っている姿。


 私が控えめに声をかけると、振り返った幼馴染もなんだか眠たそうで……同じように眠れなかったのかな、なんて考えた。


「……はよ」


 ……やっぱり陸は、いた。


 立ちあがってお尻についた砂を払うと、黙って私の隣に並ぶ。


 学校までの道のりを少し距離をあけて二人で歩いた。


 彼は躊躇っているみたいで、何か言いたそうにしてはいるけどなかなか口にしない。


 いつものくだらない喧嘩じゃないから、なんて言って仲直りしたらいいのか分からないんだろう。

 頑固な私はこんな時、絶対に謝ったり譲ったりしない。


 ……だけど今回は私がちゃんと話すよ。


 いつも偽りない気持を打ち明けてきた陸だから、嘘なんてつけない。



 それがどんな結果になったとしても──ちゃんと、話すから。

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