第110話
「──陸」
立ち止まって、今まで何度だって口にしてきた名前を呼ぶ。
「……ん?」
陸は私から話し出したことに少し驚いていた。
足を止めた私に気付いて、同じように止まる。
「神永君の、事だけど」
そう切り出すと、陸は顔を強張らせた。だけど私は構わず続ける。
「私、陸の気持ちを聞いて陸を悲しませたくないって思った。だから神永君と関わらないようにしようとした。でも……神永君の泣いてる顔見たら、分かんなくなっちゃった。神永君の事も泣かせたくないって思ったの。どっちも傷つけたくないなんて、そんな都合のいい話、ないよね」
「──正直、陸の事を恋愛対象として見たことなんて、今までないんだ。だから神永君を遠ざけたところで陸の気持ちに応えられるかどうかもわからない。神永君だって、陸よりも好きなのかって言われたらわかんないよ。だけど……どっちも、失いたくないんだよ。……どうしたらいいんだろうね」
私の今の、あやふやな気持ちを全てぶつけた。
もっと言い方だってあったかもしれないけど、不器用な私にはこれが精一杯だ。
陸の顔なんて、とてもじゃないけど見れなかった。
……だけど、私はこの幼馴染を甘く見ていたんだ。
「……ごめん。そんなに、悩ませてたんだな……」
陸の言葉を聞いて、私は勢いよく顔を上げる。
「……なんで、陸が謝るの」
怒っちゃうかと思った。
もういいよって呆れられるかと思った。
……見捨てられるかと思ったのに。
「俺は、神永と関わってほしくないわけじゃないよ。……まあ、お前らを見るのは辛いけどさ。俺にそんな権利ないし。ただ、これからあいつのことで相談を受けたり応援したりは、できないってこと」
「──今までマヤに好きな人ができた時、俺がしてきたことはもうできないって言いたかった。でも、うまく伝わらなくて、ごめん。でもさ、今……俺はマヤが俺を想って行動してくれたことがすんごい嬉しい。『俺が悲しむ顔、見たくない』って──その言葉だけで俺、超幸せ」
そう言ってくしゃっと笑うこの幼馴染は、いつも見てきた大好きな陸だった。
そっと頭を撫でられて、「大丈夫」って言うから我慢していた涙が一筋流れてしまう。
そんな私を見て慌てる陸が可笑しくて、笑っていると不器用な手つきで涙を拭ってくれた。
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