第102話


「──いったあああ!!!」


 思いっきり頭突きをかましてしまい、ゴンッと音がした。


 神永君が一瞬ぽかん……としてから涙目でおでこを押さえ、後ろにのけ反る。


「ご、ごめん!!!」

 自分でも無意識の行動で、はっとして謝る。


 でも元はと言えば神永君のせいだから!!!


「ほ、保冷剤あるかな……」

 保健室の冷凍庫から保冷剤を探し出して赤くなった彼のおでこに当てる。


「ま、まやちゃん……」

「なに」

 顔を真っ赤にして身を引く彼。


「ち、近いよ……」


 ……いやいや。

 さっきのあんたのほうが近いでしょ。


 ほっぺにちゅーまでしといてどこでテレてんの。


「じゃあ自分でやんなよ」

 そう言って手を放そうとすると

「え、いやだ!!!!」

 がしっと手を掴まれて再び保冷剤を自分のおでこに当てさせる。


「……じゃあ黙って」

 言われて気付く近い距離に、なんだかこっちが恥ずかしくなってきた。


「へへ……。俺、しあわせだ……」


 これぐらいで、幸せだなんて……。


 にこにこと笑う神永君はいつも思うけど馬鹿だよね。





 神永君との会話に集中していたら保健室の扉が開いたことに気付かず、カーテンの開く音で初めて訪問者の存在を知った。


「マヤー、帰るぞ──え……」


 開いたカーテンから見えた、見慣れた顔。


 私たちを見て、マンガみたいに持っていた荷物をどさっと落として驚くのは──。


「り、陸……」

 私の荷物を持って迎えに来てくれたようで、ベッドの上で密着する私たちの姿に驚きを隠せない陸。


 ……やべ。

 これ、また誤解されるんじゃ……。



「なにやってんの?」

 眉間にしわを寄せて低く問われる。


 陸、怒ってる……。


 神永君と関わっているといつも不機嫌そうだけど、こんなにあからさまに怒るのも珍しい。


「……帰るぞ」


 答えも聞かず私の腕を掴んでベッドから降りさせるけど、反対の腕を取りそれ以上離れるのを阻止するのは──さっきまで私のそばでにこにこと笑っていたこの男。



「……神永」

 じっと神永君を見つめる陸は何か言いたげで。

 その目線が「離せよ」と訴えている。


「……なに」

 神永君も、いつものふざけたテンションではなく真面目なトーンで答える。

 そして掴んだ手は離そうとはしない。


 そんな彼を見て目を細めると、口を開いた陸。


「マヤは、俺の世界で一番大事な女の子なんだ。……中途半端な気持ちで近づくんなら、許さない」


 陸……やっぱり、心配してくれてたんだね。

 愛子は前ほど神永君に対しての疑心はなくなったみたいだけど、陸は違ったみたい。


 不謹慎だけど、いつも可愛い子犬がなんだか少しかっこよく見えた。

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