第103話
「……中途半端とか、勝手に決めんなよ。俺は……本気でまやちゃんが好きだから」
陸の言葉に、今度は神永君がイラついたような表情になる。
……これ、私は聞いててもいいのか??
たしかに神永君には何度も告白されてるけど、それでも居づらいわ。
「……言っとくけど、俺はマヤと生まれたときから一緒なんだよ。マヤのことなら隅から隅まで知ってる。俺だって、どこの馬の骨かもわかんないやつに譲るほど生半可な気持ちじゃないんでね」
陸は少し勝ち誇ったように言う。
お前は私のお父さんか。
「──たしかに、俺はまやちゃんと知り合って少ししか経ってない。でも、まやちゃんのこと好きな気持ちは誰にも負けないから」
陸の圧力にも屈しない、強い瞳。
力強く、そう言った神永君は悔しいほどカッコいい。
──だけど、私にも言い分はある。
頼むから本人のいないところでやってくれ。
恥ずかしくて聞いてられないよ……。
「──ねえ、陸……陸ってば!!!」
保健室での言い合いの後、陸は神永君をほったらかしにして私の手を引いたまま学校の門を出た。
その歩くスピードは速くて、とてもじゃないけどついていけない。
帰宅部の私にはすぐに限界が来て陸を呼ぶけど
「なに」
その返事はすごくそっけない。
ここまで私に冷たいのはいつぶりだろう?
「……なんで怒ってるの」
そう聞くと、陸はあれだけ速く進めていた足をピタッと止めて振り返った。
その表情はやっぱり不機嫌極まりなくて──思わず身体が固くなる。
「……わかんない?」
そう首を傾げるのはいつもと変わらない子犬のような陸だけど、キリッとした顔だからかいつもよりずっと男らしい。
「……わかんない」
分からないものは分からないから、はっきり言うと陸は呆れたように笑った。
「……ほんとに、鈍感すぎる」
笑ったからか、少し表情が和らいだのを見て安心する。
そして陸は掴んでいた手を離し、いつも彼が慰めてくれる時のように優しく私の髪をなでる。
「──俺はさ、生まれてから今まで……マヤだけなんだよ。ずっと一緒にいて、マヤが悲しいときも嬉しいときも、楽しいときもしんどいときも……ずっとそばにいた。マヤに好きな人ができた時も、彼氏ができた時も……俺はいつだってお前だけを見てきたよ。お前を忘れたくて、他の女の子と付き合ったりもした。この子なら好きになれるかもしれない……そう思って。でも無理だった。俺の中でマヤはたった一人の大事な女の子なんだ」
陸の潤んだ目が私の涙腺を刺激する。
神永君や先生とはまた違った柔らかい声色に困惑してしまう。
──陸は、いつもこんなに優しい顔で、私を見ていたの?
こんなにも、壊れ物を扱うように触れてくれていたの?
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