第100話


 もう彼の目の前の女の子も半泣きになっているのに、神永君はそんなのもお構いなしにペラペラと言葉を続ける。


 もうそのへんでやめておいた方が……。


「──俺、まやちゃん以外に興味ないから。俺に興味持たせたいなら人魚でも連れて来なきゃ無理だね」


 腕を組んでドヤ顔してるけど、言っていることは滅茶苦茶。


 ……もうどこからツッコんだらいい??

 なんでそこに人魚が出てくるかなあ!!?


 女の子は悲しみを超えてぽかんとしている。

 ……まあ当たり前だよね。


「それ以外はみーんな同じ!俺、まやちゃんのこと死ぬほどすきだからさ」


 そう言って、優しそうに笑う彼に今までの文句も引っ込んでしまった。

 ……そんな顔されたら、何も言えないよ。


「──なーんか神永君って思ってた人と違う。麻井さんのこと溺愛しすぎ。あーあ、告白する気も失せた。さっきの忘れて。お幸せに~」


 呆れたようにそう言い放って、名前も知らない可愛い子は去って行った。



 彼女が扉を閉める音がした後、辺りは静寂に包まれる。

「……本当の俺も知らないくせに何が『好き』だよ」


 閉まった扉を冷たい瞳で見つめながら鼻で笑う神永君。



 そしてしばらくシーンとした空間が続き、彼はうーん、と唸りながら背伸びをした。


「……さーてと、俺も話があるんだけど??──まやちゃん」


 語尾にハートマークでも付きそうなくらい、さっきとは違った口調でこちらを見てくる神永君。


 覗いていた隙間からばっちり目が合ったから、思わず少しだけ開けていたカーテンをシャッと閉め切った。


 ……知ってたのかよ。



 固まっている私をよそに、勢いよくカーテンが開き神永君が入り込んでくる。


「あー、疲れたあー!!」

 そう言って、さっきまで私が寝ていたベッドにダイブした。


「……モテる男は大変だね」

 皮肉たっぷりに言うと、


「妬いた??」

 なんて満面の笑みで聞いてくる、可愛い男。


 ……可愛いけど殴りたい。


 そんな私のオーラに気付いたのか、慌てて「嘘だよ~」と付け足す。


「……なんかこの布団、いい匂いがすると思ったら……まやちゃんの匂いがする」


 ごろんと寝そべった彼が布団をかぶって鼻の下まで引き上げると、くんくんと匂いを嗅いでいる。


「やめて!!?」

 慌てて布団を剥ぎとるとそこには顔を真っ赤にした神永君。


「ちょ……まやちゃんの匂いとかやばい……。俺、ぶっ飛びそう……」


 なんて自分で嗅いだくせに照れて危ない発言をするから必死に話を変える。


「──神永君!!あの子、可愛かったのに告白断っていいの!!?」

 そう言うと眉間にしわを寄せて


「は?当たり前じゃん。まやちゃんがいるのになんで彼女作るの」


 ……なんで私がちょっと怒られたの?


 私が不思議に思っていると「そうそう!」と何か思い出したかのような明るい表情に変わる。


 ──本当に喜怒哀楽が激しいな。

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