第99話
「私、神永君が好きなの──」
毎日のように呼び出されるから、うんざりして保健室でサボっていたらそんな会話が聞こえてきた。
……タイミング悪。
だけど次に聞こえてきた声は
「……悪いけど。興味ない」
声が低くて言い方も冷たい、いつもとは違う彼の声。
これが、この学校での神永君。
みんなが噂する「あの」神永君なんだ。
私は個別になっているベッドのカーテンを少し開け、隙間から覗く。
そこから見えるのは、確かにいつもテンションの高いウザいぐらいのあいつ──のはずなのに。
今はズボンのポケットに手を入れてダルそうに、不機嫌そうに立っている彼。
……こんな神永君、久しぶりに見た。
そして彼と向き合って話すのは、小柄で守ってあげたくなるような女の子。
だけど、今その子は引きつった表情で神永君に食ってかかっている。
「なんで、麻井さんなの!?あんな子、神永君に釣り合わないよ!!」
……まあ、否定はできない。
できないけど、地味に傷つく。
大人しそうな顔してるのに、結構言うな……。
「──なに、自分だったら俺と釣り合うって?」
吐き捨てるように言った神永君に、ビクリと肩を震わせる女の子。
彼の表情ははっきり見えないけど怒っているように見える。
「……そういうわけじゃ……」
さすがに言い過ぎたと思ったのか、その子は気まずそうに目線を逸らした。
まあ、確かに可愛い子だよね……。
腹たつけど。
「──悪いけど俺、まやちゃん以外の女の子ってみーんな同じに見えるんだよね。だから君の名前も分かんないし他の子と見分けつかない」
そう暴露する男。
鋭い目つきと言葉が似合ってないよ。
「は?」
……思わず私も同じことを言いそうになった。
呆気にとられる彼女。
せっかくの可愛い顔が台無しになってるよ。
「だってさあ、あんなに可愛いまやちゃんがいるのに他の女の子なんて目に入らないよね」
そう言った瞬間、ふにゃ~っと表情を崩してだらしない顔になる神永君。
──ちょっとデレデレすんのやめて!!!!
人のいないところで(いるけど)、べた褒めとかほんと恥ずかしいんだけど!!
……その目の前にいる子も「他の女の子」に入ってるんでしょ!!?
ひどいやつだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます