第69話
「──本当に、ありがとう」
私の家の前まで来て神永君に頭を下げる。神永君のおかげで、どん底だった気分も少しは晴れた気がするから。
だけど素直じゃない私はもちろん、本人に伝えることなんてできず。この感謝の一言で全部伝わればいいのに、なんて都合のいいことを考えた。
「やめてよ、まやちゃん!すきな子が泣いてたら誰だって優しくするよ」
慌てたように私に近づく神永君。私の頬を両手で包んで顔を上げさせる。目線を上げて見えたのは神永君の困った顔。
「……やば。まやちゃんの上目遣い犯罪級……」
ぱっとわたしの顔から手を離すと自分の目を覆った。
「ちょっとまってね!!静める!!」
今度は左胸に手を置いて、深呼吸を始めた神永君。
「……何を?」
「俺の気持ち!!止まんなくなりそうだから……」
ぺちぺちと頬を叩いてみたり抓ってみたり。その必死な様子にぷっと吹き出した時──。
「──マヤ?」
聞きなれた声と私たちとは反対方向に見えたシルエット。隣で慌ただしかった神永君も大人しくなっている。薄暗い中目を凝らすと、それは私が会いに行くはずだった幼馴染。
コンビニにでも出かけていたのか、ラフな格好をしてビニール袋を手に提げている。
「あ、陸……」
近づいてきた陸の顔が見えると同時に陸も私の顔が見えたのか、怪訝そうな顔をした。
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