第54話


「お願い!!今度、何か御馳走するから!!」


 私のことを食べ物に釣られる食いしん坊とでも思ったのか。神永君はたしかに釣られそうだけど。


「そんで俺がいい点取れたら、そのままデートして!!」


 ……おいこら。そっちがメインだろ、確実に。


「だめ……?」


 出たよ、上目遣い。ダメなんだって。

 その目をされると何も言えなくなる。



 再び深くため息をついて、

「──明日放課後、図書室。1時間だけだから」

 彼の顔は見ず、端的に伝える。


 神永君に甘い私自身がつくづく嫌になる。


「ありがとう!!!!」


 私の言葉に顔をぱあっと分かりやすく輝かせるから

「本当に一緒に勉強するだけだから」


 可愛くない私がフル稼働してしまう。


「それでもいいよ!!ちょっとでも長く、まやちゃんといられるなら」


 ……出ました、無意識の王子的言動。(要するにキザな人ってこと)


 ──っていうか、勉強がメインでしょ?本音出ちゃってますよ。



「いい点取れたらデートしてもいいけど……」


 そこで言葉を切ると驚いて口をあんぐり開けている彼が目に入る。


「え!?で、デートしてくれるんですか!?」


 ……なぜ敬語なのかはスル―しておこう。


 ある考えが浮かんだ私はにやりと笑って見せて


「──でも、赤点取ったら絶交だから」


 そう言うと、どん底に叩き落とされたみたいな顔になる神永君。


「ちょっとまって。それって、赤点取ったら俺はまやちゃんの彼氏になるどころか友だちからも除外されちゃうってこと!?このテストの点によって天国か地獄じゃん!?」


 大げさに頭を抱えてのけ反る彼は、もう舞台俳優にでもなったらいいと思う。


 神永君の言葉やショックの受け方から察するに、赤点を取る自信もあるみたい。


「おーまいがっ!!」


 お粗末な英語の発音に彼らしさを感じた。



「せいぜい頑張って」

 何気なくそう言うと彼はピタッと動きを止める。


「……ん?“頑張って”ってことはまやちゃんは俺とデートしたいってこと!?」

「言ってないから」


 なんでそんなにポンポンとポジティブ思考が出てくるの?


「赤点を逃れても、いい点取らないとデートはしないよ?」


 神永君にとっての「いい点」がどのレベルなのかは不明だけどそれは私に判断させてもらおう。



「──ハッ!!思わぬ落とし穴が!!」


 ……なんの落とし穴だよ。


「……いいもーん、まやちゃんと一緒にいられるだけで嬉しいもん」


 拗ねたように唇を突き出す目の前の男に

「目的は勉強だっつの!」


 思い切り肩をバシッと叩いてやった。



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