第55話


 ──そしてやってきた、約束のお勉強会。


 放課後にはうちの教室に滑り込んで入ってくる神永君は私の姿を見つけるとホッとした顔をするから、こいつはどれだけ私のことを信用してないんだろうと思った。


「まやちゃん!!すきだよ!!勉強しよー!!」


 ……いや、今おかしい言葉混ざってたよね??「すきだよ」はいる?いらないよね。


 クラスのきゃあきゃあ騒いでる女子なんて目もくれず、私のもとへ向かってくる男。


 目もくれずっていうか、「神永君っ!」って可愛く呼ばれても「は?」って一文字で女の子を黙らせるから、なかなか酷い男だと思うよ。



 だけどめげない女子もいるわけで。

「勉強するなら私たちも──」


 なんて便乗してこようとする強者もいて、それなら私は必要ないかな……なんて淡い期待も抱いたけど、すぐさま砕かれる。


「うるさいから黙ってくれない?」


 最後まで言わさず、バッサリと切り捨てる神永君。ここまできたら女嫌いなんじゃないかと疑うくらいだ。

 あれ?じゃあ何か?私は女子としても認識されていないわけか?


 ──いや、そこまで謙虚でもないし鈍感でもないわ。これだけ愛の告白を受けて「女嫌いだ」なんて言わせない。




「──行こう、まやちゃん!」


 私の座っている席まで来ると、そう言って手を取って行こうとする。その表情は期待と喜びに満ちていてものすごく可愛い。


 先ほどの女子たちにその愛嬌を少しでも見せてあげたらいいと思う。私はふう、と息を吐くと仕方なく椅子から立ち上がる。ここまできたら逃げられないしね。


 勉強道具を抱えて教室から出ようとすると──。


「マヤ!」

「……陸?」


 振り向くと心配そうな顔をした幼馴染が駆け寄ってきた。私の隣にいた神永君は微妙な表情をしている。


 陸はきっと、この間のことを気にしてくれてるんだろう。どこまでも、優しい陸。



 私の顔を覗きこむようにして頭をぽんぽんと叩くと

「大丈夫?」

 って優しく微笑むから私も思わず笑ってしまった。


「……うん、ありがと」

 そんな私の言葉と表情に安心したようで、

「ん」

 と満足げに言い、神永君をチラリと見る。


「……なんかあったら言って」

 

 彼に聞こえるか聞こえないかくらいの声で囁くとそのまま荷物を担いで部活へと向かっていった。

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