第16話
――バイトが終わって更衣室へ入って行こうとすると、
「おい、マヤ」
悪魔の声に呼び止められる。
「……なんでしょう、廉先輩」
これはよくあることだけど、一応お伺いを立てる。この後に続く言葉なんて分かりきってるのに。
「着替えたらまっとけよ」
……ですよね。
廉先輩と私は帰る方向が同じなため、バイトの終わる時間が被った時はいつも一緒に帰ってくれる。
先輩曰く、「お前も一応女なんだから」。
一言余計だけど、夜道が怖くないと言ったら嘘になるからありがたく受け取っておくことにしている。
でも彼は基本的にクールな人だから、話が弾むことなんてないに等しい。沈黙が気まずいったらありゃしない。
だから少し、この時間が苦手だったりもする。
ちゃちゃっと着替えて(じゃないと文句言われるから)更衣室を出ると、壁に寄りかかってスマホをいじっている廉先輩の姿。
……黙ってるとカッコいいのにな。
そんな心の声が聞こえたかのように先輩は俯いていた顔をあげて眉間にしわを寄せる。
……やべ。
「お、お待たせしました……っ」
慌てて駆け寄ると、壁から身体を離して
「行くぞ」
と私に背を向けて歩き出した。
先輩と一緒に裏口のドアを開けて出る。
すると
「まーやちゃんっ」
「出た」
……どんだけ暇なの、こいつ。昼間にあれだけ暴れておいてけろっとした顔で帰って行った──。
──はずの!!!神永君が、いた。
両手を上着のポケットに突っ込んで満面の笑みで私を迎える。
「おつかれさま~!!」
そして私の隣に廉先輩がいるのを見るとまた、不機嫌そうな顔になる。隣では廉先輩が心底驚いたようで、固まっていた。
「え、お前まだいたの」
神永君はじろっと先輩を睨んでから
「え、当たり前でしょ」
と答える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます