第13話


「あの人のほうがバイト中まやちゃんとずっと一緒にいられるし、俺よりまやちゃんのこと知ってるだろうし……。あの人、絶対まやちゃんのことすきだもん……。もやもやする~~~っ」


 そう言いきって、自分の頭をワシャワシャする。喜怒哀楽が激しいというか、情緒不安定??


 しかも意味不明な言葉も聞こえてきたぞ。



「いや、どこをどう見たらそうなるの??廉先輩は私のことなんて、ただのイジリ甲斐のある後輩にしか思ってないよ」


 それでも彼は全く納得いっていないようで、カウンター越しに身を乗り出して力説してきた。


「いや!!!!絶対まやちゃんのことすきだね!!!まやちゃん、可愛いもん!!!惚れないわけないじゃん!!!」


 ああ──穴があったら入りたい。


 ……おい、隣の奴!!!

 また「ブッ」って吹きだしやがって!!覚えてろよ!!?



 本気で痛くなってきた頭を押さえる。


「──そんなこと言うの、あんただけだよ」

 仕方がないから、宥めるように優しく声をかける。


「いい加減、機嫌直したら??」

 すると、しぶしぶ……というように頷いてから、とんでもないことを言い出した。


「……まやちゃんがちゅーしてくれたら直る」

「いっぺん、殴ろうか?」


 調子に乗んなよという視線を送り、拳をちらつかせるとビクッと怯える彼。


「……じゃあ──」


 まだお願いがあるのか……。聞くだけは聞いてやろうと覚悟を決めた。




「──俺のこと、名前で呼んでくれる……?」



 ……どんな可愛いお願いだよ。



 “ちゅー”からの“名前呼び”なんてハードルが下がりすぎて「そんなこと?」なんて思ってしまう。



 ……やはりあざとい、この子。

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