第10話


「……いらっしゃいませ」

 望んでいない来客に、もう愛想もくそもない。


「いらっしゃいました~!!」


 いらっしゃらなくて結構なんですけど。


 満面の笑みで手を振っている「うるさい客」は間違いなく、昨日の「奴」だった。


 名前なんだっけ……?ま、いいか。



「お客様、ご注文をどうぞ」


 どうでもいいから、さっさとどっかいけ。


 そんな私のオーラなど彼には一切伝わっていないであろう。


「凛って呼んでよ~」

 ……呼ばねえよ。


 もう一度「ご注文は?」と尋ねるが


「まやちゃんで!!」

 と元気よく言うもんだから気が遠のきそうになった。


「ご注文されないのならお帰りください」

 今の私にできる精いっぱいの丁寧な対応。こいつの相手だけでいつもの倍は疲れるのだから、時給上げてもらえませんかね?


「え?まやちゃんくださ──」

「メニューはこちらです!!」


 最後まで言わせず、カウンターに置いてあるメニューをバンッと叩く。すると隣で注文していた人がビクッと肩を揺らした。


 ……失礼しました。



「おい、マヤ」

 目の前の男の対処方法が分からず茫然としていると、救世主の声──!?


 助かった!!と振り向くと予想外の人がそこにいた。


「──げ、廉先輩」


 やばい、天使じゃなくて悪魔のほうだった。


「げ、ってなに」

 ピクッと眉を吊り上げる廉先輩。

 

 ……なんでもありませーん。


 ぶんぶんと首を振って愛想笑いをする私をじとっとした目で見て


「サボんなよ」

 と一言。


 サボるだなんてとんでもない。

「接客です、接客」

 慌てて弁解するけど廉先輩は私の頭をグリグリと撫でる。


「お前いつもそんな接客しねえじゃん。楽しそうに接客してるお前、結構好きなんだけど」


 そのままぽんぽんと頭を軽くたたかれ、胸がきゅんっと高鳴った。


 これが噂のデ廉先輩か。(「デレ」+「廉先輩」のことらしい。後輩が言ってた)

 いつもツンツンしている先輩だから褒められると何だかくすぐったい。


「先輩……」

 私と廉先輩との間にちょっぴりいい雰囲気が流れた──ところで、すかさず邪魔が入るよね。

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