第一印象は最悪

第2話


 付き合う前から本当に変わった人だった。



 ──そう、あれは私のバイト先である飲食店でのこと。


「あの!!すいません!!」


 第一印象は、声がとりあえずでかい。


「どうされました?お客様」

 その大声に何事かと先輩が対応に回る。


「あの!!あの人、呼んでください!あの人!!」


 明らかに特定の人に対する呼び掛け。

 あーあ、個人的なクレームかな。呼び出しとか可哀そうに。


 ……そんな他人事みたいに思っていた私を今となっては殴りたい。


 興味本位でちらりと声のする方を向くと、彼が指さすのは紛れもなく私だった。


「ウソだろ」

 まってまって。私あの人に接客した記憶ないんだけど。


 自分で言うのもなんだけど、そんなに対応も悪くないし。


 ……先輩、「可哀そうに…」って目で見ないでください。

 さっきまでの他人を憐れむ自分を棚に上げて、心の中で悪態をつく。


 ……でも、呼ばれたからにはしょうがない。


 若いくせにクレームかよ。ちょっと顔がいいからって調子にのんなよ。顔がいい奴は性格悪いってやっぱ本当なんだな。


 そう悪口のオンパレードを頭に浮かべながら、なるべく──できる限り、笑顔で歩み寄る。


「どうされましたか、お客様」

 引きつる頬を必死で押さえて対応する。すると男は私の顔をじーっと見てにっこり笑った。


「お名前は!?」

 小さい子じゃあるまいし、馬鹿にしてるのかこいつは。上げた頬がヒクヒクする。


「あ、麻井と申します……」

 これはあれか。『後であなたのこと本社に電話しますから』とかいうタチ悪いやつか。


あっさり答えてしまったのを後悔した。


「違うよ!!下の名前!!」

……ああ、そういえば苗字は名札に書いてあったな。でもクレームに下の名前まで必要?


 にこにこと私の返答を待つ目の前の男。こんな笑顔でクレームっていうのも珍しいな。


「まや、です……」

「年齢は?」

「16です」

「一緒だ!!じゃあ──彼氏いますか!?」


 答えれば答えるほど、キラキラと輝いていく瞳に若干引いてきた。

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