第23話 赤羽 王

 両腕を後ろ手に縛られでかい黒猫の引く馬車のようなものに乗せられる。

街で見たやつよりはずいぶん目つきが悪い。


「なんだ猫車は初めてか。お前の国には猫はいないのか?」

「いるけどこんなんじゃない。」

「どういうことだ?」

「ペットとか飼い猫っていう。こう両手で持ち上げられるくらいのサイズ感なんだ」

「ああ纏い猫の類か?」

「なにを言ってるか分からん」

「こう首や手に巻き付ける猫のことだろう?」

「いやそうじゃない。毛皮とかじゃなくて一緒に住むみたいな」

「コック猫か掃除猫か?便利だよな。うちの使用人猫が懐かしいな。」

「文化がすごい違う、全然伝わらん」

「なんだ両方違うのか。なにをさせる目的で一緒に住んでるんだ?

書類整備か?雑用か奴隷か?ははーん性欲処理か?」

「もうヤダ、それも違う!!」

「なんだ貴様乙女の恥じらいみたいだな。」



そんなやりとりをしているうちにファースさんと仲良くなった。

気がする。


そして城門にたどり着いた。

跳ね橋が下りてくる。

歴戦の獣人勇者のような銅像の並ぶ敷地を抜ける。


衛兵のいる大広間を抜け階段をのぼる。


大きな扉が見える。


「この門の先に王がいる。お前の態度次第で行く先が決まるぞ。」


ちょっと本気で睨まれる。

「わかった。」



「一等獣士ファース。帰還しました。」

扉が開く。

「転移者を連れて参りました」


豪華な椅子に座った人物の前に両膝をつかされる。



「ズージー。ご苦労だった。下がってよい。」

ファースさんが下がり扉を閉める。






真ん中で大きな椅子に座る人物が厳かな声、姿勢で言う。


「我は百獣の王 シバ。

この国ズージェリアの王である。

転移者だな。この国になにをしに来た。戦争か」



やはりこいつが王か。王なのか。

そりゃそうだよな。

あんな豪華な椅子に座って、フルーツの盛り合わせみたいなの持ってるし。

名前もシバか。

百獣の王ってこいつ。

だって。

だって。

だってこいつ柴犬じゃん!

やばい、笑いをこらえるのに必死で声が出ない。



「ほう、言葉が出ぬか。かしこまらんでもよい。こちらを向け」


くそ、いっそ笑顔で。笑顔で接すれば。


「ズージー。俺は赤羽てゅす」

あかんちょっと声裏返った。


「で、おぬしどこからきた?元の国の名を答えよ」


「日本 東京というところからここにきますた」


「ほーん。なるほどな。日本。

うちの4獣士のうちのひとりが転生者でな。

日本からきたと申しておったぞ。

どれちょっと待っとれ。」


王は手元からスマホを取り出す。

慣れた手つきでタッチパネルを操作する。


「もしもし、わしわし。転移者な、日本からきたってゆっとる。

おうおうはいはいーー」


いやスマホ使えるのか異世界。


しばらくするとその転生者が入ってきた。

うなぎ頭の男だ。

「ズージー。王よ。失礼する。

お、平均的な日本人顔だな。高校生くらいか?」


「はい、高2です」



「おう、そうか。赤羽君スマホ持ってる?

この国内なら普通に電話だけ使えるから電話番号教えてくれよ。

はいOKっと。

ほんで何年からきた?2020年?過去かよw

まー過去か。地球終わってるもんな。

俺は2035年第四次世界大戦で地球半分崩壊して。

で、死んで。気づいたらこっちに転生してたってわけ。

死んだ瞬間のことはあんま思い出せないな。

2020年っつーとあれか。オリンピック中止とか新型ウイルス。あータピオカ?第三次の始まり当たりだっけ。

フルーツ牛乳?芸能人連続殺人?あとはーあれか。関東大地震とか?」


「あ、後半はたぶんまだです。タピオカまでです。」

凄い未来を知ってしまった。

「あっちゃーまだそこかーw

まあまあうちの国寛容だから見てってよ。住んでもいいし。転移者スキルもあるでしょ?

我が軍に入れば仕事もあるよ。

戦争しに来た感じじゃないし。」



「そうですか。俺まだこっち来たばっかで。

この国のこと、この世界のこと、教えてください。」


「あーね。結構あれだよな。

この国で生まれ育ったわけじゃないからあれなのよな。OKOK。

じゃあ実話っぽいこの世界物語あるからこの紙芝居をみろ。」



うなぎ男は絵本をめくる。



『昔々あるところに魔王がおった。

魔王は強く世界を滅ぼそうとした。

そこへ賢者が現れた。

賢者は転生術を用いて6人の勇者を召喚した。

剣の勇者 ひとぞく

魔法の勇者 えるふぞく

獣の勇者 じゅうじんぞく

盾の勇者 どわーふぞく

竜の勇者 りゅうぞく

鬼の勇者 おにぞく

賢者よ勇者たちは力を合わせ魔王を封印した。

やがてそれぞれが王になり子を生んだ。

賢者は封印の礎である魔石を6つに分け、それぞれの種族に与えた。

魔石は鍵。

魔王を許すとき、6つの力を合わせ封印を解きなさい。

やがて賢者は死んだ。

再びこの世に転生するよう願って。』



「はい。とまあこんな感じでーす。

で、獣の勇者がこの王様。OK?」


「え、何年か前の話なんですか」


「いや、10数年前といったところじゃな」


「ほんで俺が賢者。

賢者も6つに分かれてな。

それぞれの国で転生してるはず。

まだ生まれてるかも分からんけど。

王が暴走したら殺すためな。」


そんな本人の目の前で。


「ほんでお前どうするよ?

お勉強してく?

ほんで最初にお前が行った国な。

たぶん、ロベレドゥイだわ。ロべのバンドだろそれ?

寒かったろ?あそこ基本冬だから。夏でも寒いし。

で、あそこ戦争に転移者使うから。

安いのよコストが。

たたかえる年齢のやつさらってくるだけだし」



「ここでしばらくお世話になってもいいですか。

俺の固有スキル、この世界とあっちの世界をつなぐものなんです。

もしかしたら過去も変えられるかもしれない。」


「ほーなかなかのチートっぷりだな。」


「それは世界を滅ぼす力にもなりうるな。

お主に悪意は見えんが、強い力をもつ転移者転生者は短命じゃ。

常に命を狙われるほどの強力なスキルだと思え。

油断すれば簡単に奪われるぞ。」


「王よ。この者の教育、私めに預からせて下さい」


「そのつもりで呼んだんじゃ」


「あと門で騒いでるバカどももどうか」


「迎え入れてやれ。警備兵のよい迷惑じゃ」



そしてクロック、バン、カティも迎え入れられた。


ファースさんは「これからこいつを毎日見ることになるのか」とクロックをみてげんなりしていた。




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