12
ききたいことはいっぱい。それを全部、くまが順に説明してくれるだろう。今回は、はぐらかしたりせずに。私はそれを黙って待つ。
「ここは――異世界だよ。そう、君たちにとっては異世界。けれども、私たちにとっては、私たちの世界。ただ、あの街を作ったのは私たちではない。この建物を作ったのも。私たちではなく、彼らだ。彼らはそして、私たちをも作ったのだよ」
……やっぱり話がよくわからない。黙ったままでいると、くまは言葉を続けた。
「今は廃墟になっているが、あの街には人が住んでいたのだ。君たちによく似た人が。君たちによく似た世界で、よく似た暮らしをしていた。こちらの方が進んでいたけれどね。それが彼らだよ。私たちを作ったもの」
「――異世界人?」
「まあそうとでもいうのかもしれない」
「その人たちは……どこに行ったの?」
「この地下にいる。地下で、眠っている。地上は彼らが暮らせぬ世界になってしまったから。戦争や環境破壊や疫病や、そういった諸々の災厄で。彼らは眠り、その間にロボットたちが世界を修復する。私たちは、彼らが眠ったまま生き続けられるように力を尽くす。そして――」
ここでくまは言葉を切った。何か少し迷うような、そんな一瞬の間があった。けれどもすぐに、くまは言った。はっきりと。
「そのために、魔法少女が必要なのだよ」
――――
地下に眠る人々。地上の廃墟。崩れた建物とそれを覆う緑の葉。白い小さなロボット。
いろんなイメージが私の頭の中を駆け巡った。青い空。雲。それをバックにそびえたつ巨大なロボット。赤い一つ目。もっと向こうには塔のような建物が見える。日の光を浴びて銀色に輝いている。
私が見た街は壊れていたけれど、でもどこか美しく優しく、牧歌的とさえいえる雰囲気があった。あれは修復途中の街だったんだ。ロボットたちが、かいがいしく直していたんだ。
くまの声が聞こえた。
「その前に、こちらの世界と君たちの世界の関係について話そうか。こちらの世界の人びとは、君たちの世界の存在に早くから気づいていた。元々二つの世界の間に穴があったのだ。それを通して、ときおりちらりと、向こうの世界をのぞくことができたのだ。能力のあるものが、それを広げ、はっきりと向こうを見ることを可能にした。こちらの人びとは――彼らは、君たちを見ていたのだよ」
南雲さんのことを思い出した。南雲さんも、穴を広げることができた。南雲さんみたいな人が、異世界にもいたということか。
くまの話は続く。
「君たちの世界に行くこともできた。けれども長くはいられなかった。心身に不調をきたしてしまうからだ。彼らは見るだけで満足したのだよ。見て、そして君たちを愛していた。
そしてある時気づいたのだ。向こうからこちらにやってくるエネルギーがあるということに。それは彼らの暮らしに利用することができた。こちらから向こうに行くエネルギーもある。それは時に、君たちの世界のものを微妙に変えてしまう。
形が変わったものたちが衝突するとき、またそこに力が生まれる。彼らはこれも利用する方法を思いついた。この力はとても大きなものなのだ。今は彼らの生命維持のために使われている。長き眠りについた彼らを、ずっと生かすために。
世界が完全に修復され、彼らが眠りから目覚める、その時まで、その力は必要なのだ」
「異世界からの力によって姿を変えられたものがあるから」私は言った。異世界のからの力によって姿を変えられ――そう、それは私たちもそうじゃない。私たちも一緒。異世界からの石の力によって、変身できる。「それを元の姿に戻すのが私たち魔法少女の使命なんだと思ってた」
「そう――」
「そういう話だったよね」
でも違うんだ。今の話を聞くと、戦うことそれ自体が目的みたい。私たちが敵と戦うこと。それによって力が生み出される。そしてそれがここの世界の人びとを生かしている――。
仕組まれてたことだったんだ。戦うように。
くまの声に、ためらいが混じる。
「私の説明は――少し嘘が混じっていた。けれどもそう言うしかなかったのだ。私たちはみな、魔法少女に同じ説明をする。彼らが、こちらの世界の存在を君たちに知られたくないからだよ。それに――」
それに? 私はくまの言葉を待つ。きちんと説明がされてなかったこと。少し腹立たしい。少し、というかもっと怒ってもいいんじゃないかな、と思う。睦月さんだったらとても怒りそう。でもそんな気力もわかなくて、私は乾いた心でくまの言葉を待つ。
「――それに、彼らの心にはおそらく、罪悪感というものがあるのだ。君たちの世界と彼らの世界の関わりは一方的なものでしかない。彼らばかりが君たちの世界を利用しており、それはつまり――」
「搾取、っていうんだよ」
難しい言葉を知ってるでしょ、という気持ちで、私は言う。くまが呟いた。
「そう、搾取」
「……どうして、他の魔法少女と戦ってはいけないって言ったの?」
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