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 これは全く嘘というわけではない。新しくできた友だち、睦月さんと南雲さんのところに行くというのは本当。ただ、上手く二人を捕まえられるとよいけど。


 クリスマスイブの午後の電車はそれなりに混んでいた。カップルみたいな二人もいる。私は誰かと付き合ったことなんてないから、クリスマスを恋人と過ごすという経験もないけど、でもいつも家族で楽しいクリスマスを過ごしている。チキン食べてケーキ食べて。一夜明けてクリスマス当日にはお父さんとほたるちゃんとくまにプレゼント渡すんだ。もちろん私も二人からもらうよ。


 そんな楽しいクリスマスなのに。私は何をやってるんだと思う。私は、というより問題は睦月さんだよ。こんな日にそんなこと、やらなくてもいいのに。


 異世界に行くんだって。そう南雲さんから連絡が来た。


学校近くの公園に、南雲さんが近づきたくない場所があるらしい。睦月さんいわく、そここそが、異世界に通じる穴のある場所で。実は既に実験が行われていたそうだ。そして、南雲さんの力で、不思議な渦のようなものを発見することができた。さらにそれを広げることも。


 睦月さんはこれが穴だと断言したのだそうだ。こちらと異世界をつなぐ穴だと。そしてこれを通って異世界に行くことができるのだと。


 睦月さんはこのことを、誰にも話さないようにと南雲さんに言ったらしいけど……南雲さんはそれを破って、私に連絡をくれた。だから私もそれに応えようと思った。とにかく二人を捕まえたい。睦月さんが異世界に行く前に、とりあえず、話をしたい。


 電車の中は暖かくて、コートとマフラーが少し暑いくらいだ。窓の向こうが急速に暮れていく。私の住んでるところから睦月さんたちの学校のあるところまでは、少し時間がかかる。じれったい気持ちで私は窓の外を眺める。


 やがて電車は目的の駅に到着した。




――――




 睦月さんたちの通っている学校を通りすぎ、教えてもらった公園へと向かう。グラウンドのある広い運動公園だ。辺りは暗く、誰もいない。


穴のある場所はブランコの近くの大木の傍だと携帯のメッセージにあった。すみのほうに遊具が固まっている。私はそこへ向かう。


曇っていて星はほとんど見えない。月はぼんやりと細くてあまり明るくない。周りの防犯灯のおかげで、真っ暗闇というわけでないのがありがたい。


おそらくあの木だろうなというのがすぐに見つかって、私はその後ろに隠れた。


 寒いし、暗いし、気が滅入ってくる。公園の周りを通り過ぎる車の音が聞こえる。うう、家に帰りたい……。今日はクリスマスイブなんだよー! 美味しいチキンを食べる日なんだよー! お父さんが買ってきてくれるの! ケーキも! それからシャンメリーも!!


 楽しいクリスマスの食卓を思い出して、憂鬱になってきた。気分はマッチ売りの少女。あれ? あれは大晦日の話だったっけ? それにあの少女ほど餓えてはいないけど。


 などと考えていると、足音が近づいてきた。私は木の後ろから飛び出す。予想通りの人物がいた。二人。睦月さんと南雲さん。




――――




 睦月さんは驚いた表情でこちらを見た。そして、南雲さんのほうを振り返った。


「――律!」


 厳しい声で名前を呼ぶ。南雲さんが怯えた顔になった。


 少し離れたところにある防犯灯のおかげで、二人の顔はそれなりに見える。私は二人に近づいた。


「睦月さんと少し話がしたいの」

「律が全部しゃべったんだね」南雲さんからこちらに視線を移して、睦月さんが言った。「余計なことを」


「南雲さんが悪いんじゃない。南雲さんはただ心配しているだけ」


 南雲さんは――不安にさいなまれながら、それでも睦月さんのために頑張っているんだよ。それをくんであげてよ。


「もちろん知ってるんでしょう? これから私たちが何をしようとしているか」


 睦月さんは薄く笑いながら言った。


「異世界に行くんだよね」

「そう。正解。……ね、一瀬さんも一緒に行こうよ」


 誘われてしまった。睦月さんは何かに思い当たったようで、顔を明るくして、弾むように私に言った。


「そうだ、一瀬さんも異世界に行きたいんじゃないの? だからここに来たの? いいじゃない。今日はクリスマスイブで、恋人たちの、愛し合う人たちの為の日」


 最後の言葉は吐き捨てるように睦月さんの口から出てきた。一瞬、睦月さんの表情が歪んだけれど、また明るい笑顔になった。


「ちょうどいいじゃない。くまの本体に会うにはうってつけの日じゃない? 優しいイケメンが、あなたをかわいがってくれるイケメンが、温かく迎えてくれるよ」


 私は黙っていた。この話題は好きじゃない。睦月さんは楽し気に続けた。


「会ったら頭をなでなでしてもえるかも。ね、素敵じゃない」


 私はやっぱり何も言わなかった。怒りも笑いもしなかった。私が反応しなかったので、睦月さんも笑いを収めた。よかった。なんだか少し勝った気分。

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