第五話 夢を与える

1

 次第に寒くなって、季節が変わり冬が来る。もう12月で、街はすっかりクリスマスだ。

 

 そんな中、私は南雲さんから連絡をもらった。


 南雲さん、睦月さんとは文化祭の日以来会ってない。ただ、楓ちゃんは睦月さんと何度か会ってるみたいだ。


 楓ちゃんが言うには、睦月さんは結局、ミュウに文化祭での出来事を話さなかったらしい。とっちめる、などと言っていたのに。話しても無駄だから、で、その代わり、別の方法を思いついたとも言っていたらしい。別の方法って何? と聞いても教えてくれなかったようだけど。


 私はそれを聞いて、正直ほっとした。ミュウが知ったことはたちまち、くまにも伝わってしまう。つまり、私がくまの忠告を無視したことがばれてしまう。私はくまに、文化祭の一件を話していない。


 携帯に送られた、南雲さんからのメッセージを見る。相談したいことがあるらしい。直接会って話したいのだとか。携帯でのやり取りじゃだめなの? と尋ねるも、やっぱり直接会うほうがいい、と。


 そこで私は南雲さんと会うことになった。




――――




「ごめんなさい。呼び出してしまって」


 南雲さんが近づいてきて、そう言った。ここは南雲さんたちの家の近くの駅。私が前に偶然、睦月さんと南雲さんと出会った駅だ。南雲さんは私の家まで来ると言ったけど、私が断った。なんだか申し訳ないし。


 それに、南雲さんとの話をくまに聞かれたくないというのもある。ひょっとして、文化祭での話が出てくるかもしれないから。


 なんだか……くまとの間に秘密ができてしまった。溝が、できてしまった。今までこんなことなかったのに。ううん、全てを話してきたわけじゃないけど、なんだか関係が重くなってしまった。


 でも私はいつもと変わらずくまと接する。くまも変わらない。私の心のもやもやに気づいていない。はず。


 やっぱり文化祭での出来事を言うべきだったのでは? と思う。言って、せっかく忠告してくれたことを無視してごめんね、と謝るべきだったのでは。でも今さら言うのも今までなんで黙ってたんだということになるし……。やっぱり気が重い。


「ううん。私もちょうどこっちに用があったの。クリスマスのプレゼント買おうと思って」


 これは本当。お父さんとほたるちゃんに。それからくまにも。この駅の周辺は賑やかでお店が多くて、選びがいがある。


「でもその前に、話を聞かせて」


 私は南雲さんに言った。これが今日の一番大事な用件だから。話をするなら、どこか落ち着ける、せめて座れる場所がいい。私と南雲さんは、近くのハンバーガーショップに行くことにした。


 まだお昼には早いし、南雲さんは飲み物だけ。私は飲み物とアップルパイを選んだ。店内に人はまばらだ。


 南雲さんが、ストローでバニラシェイクをかき混ぜながら切り出した。


「……睦月先輩が、異世界に行くっていうんです」


 私は一瞬混乱した。異世界に……行く? そんなに簡単に行けるものなの?


 ちょっと黙った後、私は南雲さんに尋ねた。


「どうやって行くの? 異世界って、そんな隣の県とかじゃないんだから」


 異世界……くまたちのいるところだよね。前にも睦月さんは異世界に行きたいって言ってた。異世界がどんなところか知りたいって。その気持ちは私もわかる。でも、行く方法がないじゃない?


「私の力を使うんです」

「どういうこと?」


 ますますわけがわからなくなった。南雲さんの力? えっと、空間に直接働きかける、とかいう?


「私は昔から、変なものが見えることがあって。霊感とか、そういうものじゃないかなと思ってたんですけど」


 そういえば、睦月さんも言っていた。南雲さんの霊感のこと。でも睦月さんはそれは霊感じゃなくて、異世界のものを見ているのでは、とも言っていた。睦月さんは南雲さんの能力を気にしていて、それを――異世界に行くために使おうとしているの?


 南雲さんは話を続ける。


「でも睦月先輩は、それは幽霊とかじゃなくて、異世界の何かなんじゃないのって言うんです。私が異世界のものが見えるのは、異世界に近い存在だからで――いえ、近いというのとはまた違うのかもしれないですけど」


 カップの蓋を押して、南雲さんは私を見た。


「私の力は空間に働きかけるもので、だから、穴というのがあるらしいじゃないですか? 異世界とこちらをつなぐ穴。それに対しても影響を持ちうるんじゃないかって、睦月先輩が言うんです。私が私の力を持って、穴に働きかければ、そこから異世界に行くことができる――」


「でも」私は去年の合唱コンクールのことを思い出した。くまが行方不明になった件だ。「そんなに上手くいかないと思う。私の学校にも穴があるらしいの。前にね、くまを学校に連れていったことがある。でもくまが行方不明になってしまって――穴の近くに、異世界人のよりましであるくまを連れていったから、場が不安定になったみたいなの。穴は、こちらが思うより、扱いが難しいものだよ」


「私の学校にも穴があるんです。ミュウがそう言ってました。どこにあるか――私にはなんとなくわかります。あまり近づきたくない場所があるから。怖くて、近づけない場所が。そういう場所は学校以外にもいくつかあります。

これも霊感のせいだと思ってたんです。霊のたまり場になってるのかなあって。でも、睦月先輩が言うには、そこが穴のある場所なんです」

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