7
笑ったりしかめっ面だったり、アップだったりロングだったり、室内だったり屋外だったり。こっちを見てたり視線を外してたり。コマ送りのように連続している写真もある。少し斜めから、近づいて、こっちを振り返って、笑う。眩しい笑顔だ。
見ていると不思議な気持ちになってくる。というか、写真というものがそもそも不思議なんじゃないかな。これはカメラマンの見ている被写体で、カメラマンを見ている被写体で、そんな二人の関係性の中に放り込まれるというか。そう、なんだか変な感じ。濃密な二人の空気の中に、私が突っ込まれている。
今まで写真を見て、そんなことを思ったことはないんだけど。楓ちゃんと睦月さんが仲いいせいかな。二人の距離の近さというものを感じてしまうのかもしれない。
写真はどれも上手だった。楓ちゃんの言う通り。私は専門家じゃないからよくわからないけれど、でも構図とか光や色の具合とか、何かそう言ったものが様になっているような感じがする。楓ちゃん綺麗。元が綺麗ってのもあるんだけど、でも、すごく綺麗に撮ってもらってる。
「写真、上手だね」
私は睦月さんに言った。
「ありがとう」
「楓ちゃんも綺麗」
「そうだね。被写体がいいんだよ」
カメラマンの腕もあると思うんだけどな。少し黙っていると、睦月さんがぽつりと言った。
「……こんなに撮って、それなのに……」
「えっ?」
何の話かわからず、私は睦月さんを見る。睦月さんは、誤魔化すように笑った。
「なんでもない」
あまり聞いちゃいけないことみたい。だから私はそれはそのままに、楓ちゃんの話をすることにした。
「楓ちゃんと仲良かったんだね」
いや、それは知ってたんだけど、写真の中の楓ちゃんの自然な表情を見て、ますますそう思ったのだ。睦月さんは頷いた。
「うん。私は――友だち作るの下手なの。小学校では一人ぼっちだった。でもそれでも構わなかった。一人でも。別に寂しくないし困ってないし、そのまま一人でよかったんだよ。中学に上がっても一人なんだろうなと思ってた。でもそこで楓と会って――」
「仲良くなったんだね」
よかったね、と思う。寂しくないっていってもさ。一人が楽だとか平気だとかいう気持ちもわからなくもないけど、でも友だちがいても悪くないよね。
睦月さんは写真に目を向けたまま微笑んだ。
「そう。私は一人で構わなかったのに。でも楓の方から声をかけてきたんだ。だから仲良くなったの」
そこから楓ちゃんの話になった。前の学校での楓ちゃんの話。睦月さんは楓ちゃんのこととなると饒舌になるようだ。私も、現在の学校での楓ちゃんの様子を話す。
場所を移動して、ローテーブルの前に座る。睦月さんのお母さんが持ってきてくれたクッキーとオレンジジュースをいただく。どちらもとても美味しかった。お母さんいい人だね、と思う。どちらのお母さんも。前のお母さんも今のお母さんも、きっとどっちもいい人だよ。
――――
そろそろ帰る時間になる。私が立ち上がると、睦月さんがきいた。
「駅までの道、わかる?」
ああ……そういえば……。うん、なんとなくわかる……気もするけれど。ただただ睦月さんについて歩いただけだから、ぼんやりとしか道順覚えてない……正直。
悩む私に睦月さんが言った。
「駅まで送るよ」
それは申し訳ない。地図を描いてくれればいいのに、と言ったけれど、睦月さんはきかなかった。運動になるから、と一緒に駅まで行ってくれる。
駅前でお別れする。時刻は昼と夕暮れの間といった感じで、まだそんなに遅い時間ではい。でも私の家まで少し時間がかかるから、早めの電車に乗っておきたい。
「今度、楓の発表会があるでしょ?」
別れ際、睦月さんが言った。私は頷いた。
「そうだよ。あ、睦月さんも行くんだよね。私も招待されたんだ」
「よければその日、発表会の前に少し一緒に買い物でもしない? 時間空いてるかな?」
「いいよ!」
空いてるよ! 睦月さんのほうから次のお誘いがあるとは思ってなかった。なので、私は嬉しくなって、勢いよく答えてしまう。
睦月さんも笑顔になって、
「よかった。私、もう少し一瀬さんとお話したくて」
「そうなんだ」
なんだかどぎまぎしてしまう。私、気に入られたのかな。私、そんなに人気のあるタイプというわけではないけど……でもまあ、そんなに嫌な人間でもないし?
「じゃあ、また、詳しいことは連絡するね」
睦月さんが言う。連絡先は交換しあってる。友だちが増えたみたい。友だち……ってことでいいよね。私だけがそう思ってるんじゃないよね。睦月さんにとっては私はただの知り合いだとか。そんなことはない、とは思う。
じゃあねと言って別れて、改札を通っていく。楽しみが増えたな。私は軽い足取りで思う。楓ちゃんの発表会。それだけでも楽しみだったけど、その前に、睦月さんとの買い物。
私は楽しく、ホームへと向かう。
――――
家に帰って自室に入る。いきなりくまが飛んできた。珍しいな。たいていこちらが声をかけるまで動かないのに。
「話は聞いたぞ」
開口一番、くまは言った。怒ってるみたいだ。話? ってなんなんだろう。
「他の魔法少女と親しくしてるそうじゃないか」
睦月さんと南雲さんのこと? 今日、二人と会ったことをなんで知ってるんだろう……。私は考えて、はたと思い当たった。ミュウだ!
ミュウがくまに知らせたんだ! 私が会いに来たことを。それにしても情報伝わるの早いな。二人が知り合いだったら面白いのに、とか思ってたけど、これはばっちり知り合いだな。というか、同じオフィスの隣同士とかじゃなかろうか。
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