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 笑ったりしかめっ面だったり、アップだったりロングだったり、室内だったり屋外だったり。こっちを見てたり視線を外してたり。コマ送りのように連続している写真もある。少し斜めから、近づいて、こっちを振り返って、笑う。眩しい笑顔だ。


 見ていると不思議な気持ちになってくる。というか、写真というものがそもそも不思議なんじゃないかな。これはカメラマンの見ている被写体で、カメラマンを見ている被写体で、そんな二人の関係性の中に放り込まれるというか。そう、なんだか変な感じ。濃密な二人の空気の中に、私が突っ込まれている。


 今まで写真を見て、そんなことを思ったことはないんだけど。楓ちゃんと睦月さんが仲いいせいかな。二人の距離の近さというものを感じてしまうのかもしれない。


 写真はどれも上手だった。楓ちゃんの言う通り。私は専門家じゃないからよくわからないけれど、でも構図とか光や色の具合とか、何かそう言ったものが様になっているような感じがする。楓ちゃん綺麗。元が綺麗ってのもあるんだけど、でも、すごく綺麗に撮ってもらってる。


「写真、上手だね」


 私は睦月さんに言った。


「ありがとう」

「楓ちゃんも綺麗」

「そうだね。被写体がいいんだよ」


 カメラマンの腕もあると思うんだけどな。少し黙っていると、睦月さんがぽつりと言った。


「……こんなに撮って、それなのに……」

「えっ?」


 何の話かわからず、私は睦月さんを見る。睦月さんは、誤魔化すように笑った。


「なんでもない」


 あまり聞いちゃいけないことみたい。だから私はそれはそのままに、楓ちゃんの話をすることにした。


「楓ちゃんと仲良かったんだね」


 いや、それは知ってたんだけど、写真の中の楓ちゃんの自然な表情を見て、ますますそう思ったのだ。睦月さんは頷いた。


「うん。私は――友だち作るの下手なの。小学校では一人ぼっちだった。でもそれでも構わなかった。一人でも。別に寂しくないし困ってないし、そのまま一人でよかったんだよ。中学に上がっても一人なんだろうなと思ってた。でもそこで楓と会って――」

「仲良くなったんだね」


 よかったね、と思う。寂しくないっていってもさ。一人が楽だとか平気だとかいう気持ちもわからなくもないけど、でも友だちがいても悪くないよね。


 睦月さんは写真に目を向けたまま微笑んだ。


「そう。私は一人で構わなかったのに。でも楓の方から声をかけてきたんだ。だから仲良くなったの」


 そこから楓ちゃんの話になった。前の学校での楓ちゃんの話。睦月さんは楓ちゃんのこととなると饒舌になるようだ。私も、現在の学校での楓ちゃんの様子を話す。


 場所を移動して、ローテーブルの前に座る。睦月さんのお母さんが持ってきてくれたクッキーとオレンジジュースをいただく。どちらもとても美味しかった。お母さんいい人だね、と思う。どちらのお母さんも。前のお母さんも今のお母さんも、きっとどっちもいい人だよ。




――――




 そろそろ帰る時間になる。私が立ち上がると、睦月さんがきいた。


「駅までの道、わかる?」


 ああ……そういえば……。うん、なんとなくわかる……気もするけれど。ただただ睦月さんについて歩いただけだから、ぼんやりとしか道順覚えてない……正直。


 悩む私に睦月さんが言った。


「駅まで送るよ」


 それは申し訳ない。地図を描いてくれればいいのに、と言ったけれど、睦月さんはきかなかった。運動になるから、と一緒に駅まで行ってくれる。


 駅前でお別れする。時刻は昼と夕暮れの間といった感じで、まだそんなに遅い時間ではい。でも私の家まで少し時間がかかるから、早めの電車に乗っておきたい。


「今度、楓の発表会があるでしょ?」


 別れ際、睦月さんが言った。私は頷いた。


「そうだよ。あ、睦月さんも行くんだよね。私も招待されたんだ」

「よければその日、発表会の前に少し一緒に買い物でもしない? 時間空いてるかな?」

「いいよ!」


 空いてるよ! 睦月さんのほうから次のお誘いがあるとは思ってなかった。なので、私は嬉しくなって、勢いよく答えてしまう。


 睦月さんも笑顔になって、


「よかった。私、もう少し一瀬さんとお話したくて」

「そうなんだ」


 なんだかどぎまぎしてしまう。私、気に入られたのかな。私、そんなに人気のあるタイプというわけではないけど……でもまあ、そんなに嫌な人間でもないし?


「じゃあ、また、詳しいことは連絡するね」


 睦月さんが言う。連絡先は交換しあってる。友だちが増えたみたい。友だち……ってことでいいよね。私だけがそう思ってるんじゃないよね。睦月さんにとっては私はただの知り合いだとか。そんなことはない、とは思う。


 じゃあねと言って別れて、改札を通っていく。楽しみが増えたな。私は軽い足取りで思う。楓ちゃんの発表会。それだけでも楽しみだったけど、その前に、睦月さんとの買い物。


 私は楽しく、ホームへと向かう。




――――




 家に帰って自室に入る。いきなりくまが飛んできた。珍しいな。たいていこちらが声をかけるまで動かないのに。


「話は聞いたぞ」


 開口一番、くまは言った。怒ってるみたいだ。話? ってなんなんだろう。


「他の魔法少女と親しくしてるそうじゃないか」


 睦月さんと南雲さんのこと? 今日、二人と会ったことをなんで知ってるんだろう……。私は考えて、はたと思い当たった。ミュウだ!


 ミュウがくまに知らせたんだ! 私が会いに来たことを。それにしても情報伝わるの早いな。二人が知り合いだったら面白いのに、とか思ってたけど、これはばっちり知り合いだな。というか、同じオフィスの隣同士とかじゃなかろうか。

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