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それに髪質も似てない。睦月さん、髪は母譲りだって言ってた。でもあのお母さんはふんわりとした髪だし、いや、パーマかけてるのかもしれないけど、でも似てないっていうか、そもそも顔も似てないな。どちらも整った顔立ちだけど、睦月さんは美人系で、お母さんはかわいい系。
言葉を失っている私に、睦月さんは苦笑しながら声をかけた。
「産みの母じゃないよ。二番目のお母さん」
二番目のお母さんか。なるほど、納得……して、私は次にどういうべきか困った。私の家にも母はいないけど、他人の家の事情に深入りするのはよろしくないように思う。えっと……どう会話を続けよう。
「……若くて綺麗なお母さんだね」
なんだか陳腐な言葉が出てしまった。これでよかったのかわからない。睦月さんは笑った。
「そうだね。私と10歳ほどしか離れてないんだ。よく姉と間違われる」
……えーとえーと。次はなんて返せばいいんだ? 迷いながら、私は言わなくてもいいようなことを口にしていた。
「あ、あの、うちもお母さんいなくてね、私が小さい頃に亡くなったの。でも新しいお母さんもいなくて、今は私と姉と父の三人暮らしで」
「そうだったんだ」
睦月さんが真面目な顔をしてこちらを見た。ああー一体何を言ってるのだ私は。
「でも三人で仲良く幸せに暮らしてる!」
話を終わらせたくて、私は強引に言った。睦月さんが少し微笑んだ。
「よかったね。私の産みの母は生きてるよ。何年か前に、恋人をつくって出ていっちゃったの。今はその恋人と幸せに暮らしてる」
「そ、そうなんだ……」
それはよく……よくないような気もするけれど、産みのお母さんが現在幸せならいいのか? のか? 睦月さんはさらに笑った。
「なんだか産みの母がずいぶん悪いように思えるけど、でもそうでもないんだよ。父にだって恋人はいたんだから。あ、それが今の母ね」
「……」
うん……。そうなの。睦月さんずいぶんあっけらかんと言うけど……。
睦月さんはちょっと顔をしかめた。
「仲の悪い夫婦だったんだ。喧嘩ばっかり。だから別れてくれたときには嬉しかったな。気の合わないもの同士だったんだろうね。それが何かの間違いで結婚して。全部間違いだったんだよ。でも今は正しい相手に巡り合えて、幸せになってる。よかったじゃない。まあ、間違いの結果としての私がここにいるわけだけど」
「ま、間違いじゃないよ!」
私は思わず言ってしまった。間違いだなんて。間違いの結果としての私、って、そういうことを言うのはよくないと思う。
結婚はそりゃ、後から見ればあれはよくない選択だったな、ってのはあるかもしれないけど(私は結婚したことがないからはっきりと言えない部分もあるけど)、でも生まれた子どもはまた違う話だよ。……うん、何か上手く言えないけれど。
睦月さんが少し驚いた顔で私を見る。そしてまた笑顔になった。
「ありがとう。そう言ってくれて。あ、今のうちの家族はすごく平和だよ。新しいお母さんは優しいし、小さい妹もいるの。父と新しい母との間の子ね」
妹! そういえば玄関に小さな子どもの靴があった……ような、なかったような。おうちのゴージャスさに圧倒されて、細部まで見てないよ。
睦月さんは目を細める。
「それにね、少しすると家族が増えるの。また赤ちゃんが生まれるんだよ」
「え、ええっ!」
そういえば、お母さん少しふっくらしていたような……? これもよく覚えてないけど。
私はますます何を言っていいかわからなくなり、混乱した頭でとりあえず言った。
「よ、よかったね。え、えっと、賑やかになるし……そう、この家は人数が多いほうがいいよ! 広い家だから、少人数だと寂しい! たくさん人がいるといい!」
何を言ってるんだか自分でもよくわからないけど……。こういうのは得意じゃない、得意じゃないんだよー。ここで、上手いというのか、正しいというのか、そういう言葉をさらりと口にできるほど、よくできた人間じゃないんだよー。
睦月さんはあたふたする私を見て、ちょっと笑った。そんなに嫌な笑い方ではなかった。
「一瀬さんって、少し、楓に似てるね」
楓ちゃんに!? 突然そう言われて、私は嬉しくなった。美人の楓ちゃんに似てるとな!? 私は照れて笑顔になった。
「いやあ、楓ちゃんほど綺麗じゃないし、スタイルもよくないと思うけど……」
睦月さんは申し訳なさそうな顔になった。
「あ、ごめん、外見じゃなくて中身の話……」
うん。知ってた。
しかし、話題が変わりそうなのはありがたい。楓ちゃん、という箇所に私は飛びつく。
「そういえば、楓ちゃんが、睦月さんはカメラが好きなんだって言ってた。写真を撮るのが上手で、自分も撮ってもらうって」
「そうだよ、写真撮るの好き。上手かどうかは……わからないけど。楓の写真もいっぱいあるよ。見る?」
「うん!」
よかった。とりあえず、睦月さんちの家庭の事情からは離れることができそう。睦月さんは机に向かった。私も後から続く。机の上にはパソコンが乗っていて、睦月さんはそれを起動させ、フォルダの一つを開けた。そこには楓ちゃんの写真がいっぱい入っていた。
「わ、すごいね!」
楓ちゃんの写真ばかり。楓ちゃん専用のフォルダなのかな。クリックすると、一つ一つの写真が大きくなる。いろんな楓ちゃんがいる。
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