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「ミュウに会ってみたいなあ……」


 独り言のようにぽつりと言ったその言葉を、睦月さんは聞き逃さなかった。


「会いたいの? じゃあ、うちに来る?」

「えっ! いいの!?」

「いいよ。何だったら今日これからでも。駅からうちは近いし」


 ええー! 予想外の展開だな! 今日は午後から南雲さんが予定があるとかで、そのため早いランチとなったのだ。私は午後も暇だから、南雲さんと別れた後はどうするのかな、睦月さんも家に帰るのかな、私はまだ時間あるけど……などと思っていたのだけど。


「行く! ミュウに会う!」


 身を乗り出すようにして私は言った。ミュウどんな猫(人?)なんだろう。くま以外の異世界人に会うの初めて! くまに似てるのかな。ひょっとすると女性だったりするのかも。


「いいなー。私も行きたいです」


 口をとがらせて、羨ましそうに南雲さんが言う。


 店は次第に混んできた。午後の予定(それも楽しみなもの!)もできたし、私は弾む気持ちで残りのランチを食べた。




――――




 南雲さんと別れる。名残惜しそうな南雲さん。こちらを見て手を振って、そして改札の奥へと消えていく。


 睦月さんがくるりと向きを変えて歩き出した。私もそれについていく。歩きながら、睦月さんは言った。


「……律も面白い子だよね」

「面白い? ああ、でも素直でいい子だよね。かわいいし」

「うん、まあ面白いというか、ユニーク? その……能力が変わっている」


 そうだね。私も最初はびっくりした。空が崩れちゃうんだもん。南雲さんの能力はとても珍しいものだそうだ。


「同じ能力を持つ魔法少女はいないのかな」


 私の疑問に睦月さんが答える。


「少なくとも、後藤先生が知る限りはいないみたい」


 なんだかすごい。ちっちゃくてかわいらしくて無邪気で、つまりこう、言っちゃあなんだけどぱっと見すごいって感じは何もしないんだけど、でも他にないような能力を持ってる南雲さん。その意外性もすごい。


 私たちは駅を後にする。休日の駅前は人で賑わっていて、私ははぐれないように睦月さんについていく。


「律がね、以前話してくれたことがあるんだ。自分には霊感があるって」

「霊感」


 どういうこと? と面食らっていると、睦月さんは少し笑った。


「なんだか突飛な話だね。でもね、律が言うには、この世ならぬものが見えるんだって。それが幽霊なんだか怪物なんだか妖精なんだかはわからないけど。でもこの世にいないようなものの姿が見えたりして――」

「繊細なんだね」


 幽霊もお化けも私はあまり信じていない。だって! 実際に幽霊がいると思うと怖いし! でも、怖くない幽霊ならいいかな。フレンドリーな幽霊とか……いるのかな。あと、かわいいお化けとか。絵本に出てくるようなかわいいお化けなら大歓迎。


 霊感がある人って、繊細な人が多いイメージがある。私はがさつだから、幽霊とか現れても気づかないのかもしれない。


「霊感……なのかな」


 前方を見ながら、睦月さんはぽつりと言う。信号が赤になって、私たちは他の多くの人たちとともに足を止める。


 考えるように、睦月さんは続ける。


「霊感じゃないのかも。律が見たものは幽霊とかじゃなくて、異世界の何かだったのかも。もしくは異世界からの力で姿を変えられた何か」


 ああ! それはあるかも! 私は夏休みの、海での一件を思い出す。それから文芸部の部室や講堂での出来事も。


「ありうるね!」


 私は同意する。


「でも、律は人よりずっと多く、そういった不思議なものを見ているみたい。異世界に関連するものを感知する力が人より高いのかな。ひょっとすると、あの不思議な能力もそれと関係しているのかも……」


 信号が変わった。みんな歩き出す。私も睦月さんも。


「異世界に近いってこと?」


 私は睦月さんに尋ねる。異世界に近いってどういうことだ? などと思いながら。


「うん。そうかもしれない。律のあの能力は……ほんとはもっとすごいことが……」


 そこまで言って睦月さんは黙った。自分の考えを頭の中で吟味しているみたい。


 私は続きを促さず、黙って睦月さんの隣を歩いた。




――――




 人は次第に少なくなっていく。いつの間にか私たちだけになっている。商業施設が立ち並ぶ区域を抜けて、住宅地へ。静かな住宅地だ。……ていうか、ここ、高級住宅街では?


 しんとしている。一つ一つの住宅の敷地が広い。高い塀が続いて、大きな木がその向こうに見えて、なんというかあまり生活感がないというか、こう、すごくお上品で物静かな人たちが住んでそうというか……。


 場違いな気持ちがひしひしとするよ! 私や、瑞希の家がある住宅街が懐かしい……。小さな家がせせこましくあるの。でも落ち着く場所だよ。なんだか今日は、緊張するところによく連れていかれるなあ……。カフェでしょ、そしてここ。馴染みのハンバーガー屋が懐かしい……。


 そんなことを思っていたら、大きな門の前についた。「ここなの」睦月さんが言う。ここが睦月さんの家……。――豪邸じゃないかー!


 門を通って中に入る。白くてモダンなお屋敷が、私たちを迎えてくれる。綺麗な芝生。整えられた庭木。玄関までの小道もお高そう。私は黙って睦月さんの後に続く。

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