3

「ああ、私ダメなんですよ!」


 慌てて、両手を横に振る南雲さん。


「何がダメなの?」


 バレッタが? と不思議に思う。南雲さんかわいいから、こういうリボン似合うのに。


「バレッタとか上手く使えないんですよ! 私の髪って、すごく剛毛でくせっけで。全然まとまらない……」


 南雲さんはそう言って少ししょんぼりしつつ、でもテーブルに並べられた髪飾りを見る。「でもヘアアクセサリーの類は好きなんです。使うことないんですけど、でも見るのは好き……」


 私は南雲さんの髪を見た。あっさりとしたショートカットの髪。まあたしかに……剛毛でくせっけかな。でも量が多い髪の毛を上手い具合にショートにまとめている。少しふんわりとしていて南雲さんに合ってる。


「先輩はいいですよねえ。髪綺麗で」


 南雲さんは睦月さんを見て言った。睦月さんの髪は本当に綺麗。睦月さんは微笑んだ。


「ありがとう。これ、母譲りなの」


 お母さんもこんな綺麗な髪なんだ。睦月さんのお母さんってどんな人なんだろう。似てるのかな。やっぱりこういう落ち着いた美人なのかも。




――――




 結局私はシャープペンシルを買った。あとハンドタオル。ハンカチ代わりに使っているのが、これもいっぱいあるんだけど、まあ増えてもいいかなって思って。生成りで隅に葉っぱの刺繍がしてある、大変シンプルだけどかわいらしいものを買った。


 南雲さんはかごの形をした小さなバッグ。メルヘンちっくで南雲さんらしい。睦月さんは意外なことに――でもないのかもしれないけれど、あの白猫のぬいぐるみを買っていた。私はくまのぬいぐるみを断念する。なんだか私のほうが、異世界の人に対して愛情がないみたい。


 駅ビルの他のお店をあれこれ見て回ったあと、雑貨屋に併設されているカフェで少し早い昼食をとることになった。カフェは雑貨屋と同じく白を基調としたナチュラルなしゃれたお店。


 私は緊張してしまう。だって、こういうカフェでご飯を食べたことなんてないから。瑞希と来るときはいつもチェーン店のハンバーガーだし……。睦月さんは落ち着いている。慣れてる感じがする。一方南雲さんはきょろきょろしていて、なんだかかわいらしい。


 注文をして待ってるとランチがやってくる。白いプレートにカラフルな野菜がたくさん乗ったヘルシーな一品。色鮮やかでかわいくて健康にも良さそうでテンションはあがるのだけど、同時になんだかウサギにでもなったような気分になってしまう。


「ミュウによいお土産ができたな」


 雑貨屋の袋を見ながら睦月さんが言った。「『友だち』って言葉にほだされて、つい買っちゃった」


「でも私はくまのぬいぐるみ買ってないよー」


 ぬいぐるみって結構高いんだもん。自分の欲しいものだけ買ってしまった……。くまに何か買ってあげたことってないような気がする。そもそも何が欲しいのかわからないし……。


「ねえ、睦月さんはミュウと普段、どんなことを話しているの?」


 尋ねると、睦月さんは少し意外そうな顔をした。


「ミュウと? 今日出会った敵のこととか?」

「学校のこととかも?」

「それはあまり」


 そう言って睦月さんはあまりこの話題に興味がなさそうに、フォークにレタスを突き刺した。


「あまりお話しないの?」

「うん。だって、話すことそんなにないでしょ」


 そうかなあ。いろいろあるけど。私は学校で起こったこととかも話してる。くまはよい聞き役で、楽しそうに聞いてくれる。無理に私に合わせている……ってこともないと思うけど。


「それにこちらの疑問にはあまり答えてくれない」


 睦月さんはそう言って、サラダを口に運んだ。睦月さんの食べ方は綺麗だ。お皿の上のものが、とっちらかったりせず、整然となくなっていく。


 それはさておき、睦月さんの言うことはもっともだった。くまも秘密主義者だ。たくさんの魔法少女を知っている後藤先生によると、異世界人はみなそうらしい。後藤先生は魔法少女についてもっと知りたく思っているから、異世界人のそういう態度は少しはがゆいみたい。


「時折――いらいらすることもあるな」


 と、睦月さん。私は言った。


「あまりいろんなことを教えてくれないから?」

「うん。とっつかまえて吐き出させたくなる。ぎゅーって首を掴んで」


 そこまで言って睦月さんはふふっと笑った。


「首絞めちゃうと死んじゃうかな」


 私は戸惑ってしまった。南雲さんを見ると、彼女も困ったような笑みを浮かべている。これは、冗談――なんだよね。なんだかわかりにくいけど。


 くまは、くまのぬいぐるみを依り代にしているだけで、本体は異世界にあるらしいけど、ぬいぐるみに受けたダメージは本体にも伝わるらしい。だから首を締めたら苦しがると思う。死ぬかどうかは――ちょっとよくわからないけど。


 私を見て、睦月さんは言った。


「一瀬さんはくまと仲良しでいいね」


 私は曖昧に微笑んだ。仲良し……まあ仲良しかな。首絞めたくなることはないし。


 睦月さんとミュウは仲が悪いのかなあ。でも仲が悪かったらおみやげなんて買わないよね。


 ミュウ、どんな猫なんだろう。気になってきた。

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