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 睦月さんと南雲さんだ! こんなところで会うなんて! あ、でもここ、よく考えたら楓ちゃんが以前住んでいた市だ。そうか、二人の生活圏内なんだ。


「久しぶりー! 偶然だね!」


 私も足取り軽く二人に近寄った。


 南雲さんはにこにこしている。南雲さんは小動物っぽくてかわいらしい。


「ここで会うとは思ってませんでした。よくこちらに来るんですか?」

「うん、たまにね。買い物とかに」


 ここの駅は大きいし、駅付近もとても賑わっている。少し遠出になるけれど、瑞希たちと遊びにやってくる。


「私たちも買い物なんです」


 そう言って南雲さんは睦月さんを見る。大人っぽくてすらりとしていて、どこか謎めいた雰囲気さえある睦月さん。今日も落ち着いたグレーの服を着ている。南雲さんの服がフェミニンでかわいらしいのとは対照的だな。睦月さんは大きな目で私を見て言った。


「一瀬さんは一人なの?」

「うん。瑞希と来る予定だったんだけど、直前に瑞希に急用が入っちゃって……」

「あ、じゃあ、私たちと一緒に行動しませんか?」


 これは南雲さん。にこにこ笑顔で私を見上げる。もちろん断る理由はない。私は頷いた。


「いいよ、っていうかありがたい。一人でもいいんだけど、他の人がいたほうがやっぱり楽しいし」

「よかったあ」


 南雲さんの曇りのない笑顔。睦月さんはと見ると、こちらもそんなに嫌ではなさそう。穏やかに微笑んでいる。


「行きたいところ、あります?」

「駅ビルに新しくできた雑貨屋があるって聞いて。そこに行こうと思ってたんだけど」

「知ってます! テレビで紹介されてましたよね! 私たちもそこに行こうと思ってて」

「えー、それはよかった。じゃあさっそく」

「行きましょ行きましょ」


 私たちは歩き始める。南雲さんが、最近の様子などを尋ねてきて、私は学校であったことなどを語る。


 南雲さんの向こうには睦月さん。静かに、私たちの話を聞いている。賑わう駅構内を、私たちはエレベーターへと向かう。




――――




 雑貨屋は白を基調としたナチュラルなお店だった。小さな観葉植物や外国のおもちゃが並ぶ木の机を横を通って店内へと入る。アクセサリーや小物類、文房具に食器や、ちょっとした衣類なども並んでいる。


 あまり高いものは買えないから、手ごろな値段で買えそうなものばかり見てしまう。文房具とかいいなあ。シンプルで大人っぽい、茶色の表紙のメモ帳。アルファベットの黒いロゴがしゃれてて素敵。でもメモ帳たくさん持ってるんだよなあ……。


 木製のシャープペンシルを見つける。これもシンプルで素敵。でもシャープペンシルもたくさん持ってる……まあ一つくらい増えてもいいよね。


 買うべきか迷いながら、さらにお店の中を見て回る。ぬいぐるみもあった。くまのぬいぐるみを見つける。うちのくまより少し大きいくらいのサイズ。かわいらしいくりくりとした目をしている。


 焦げ茶の身体に白いリボンで、どういうわけか、女の子っぽいって思ってしまった。うちのくまの友だちにどうかなあ。いや、女の子なら、友だちじゃなくて彼女? 二つを並べて置いとくの。でもくまがこの子とお話できるわけでもないし、あまり意味はないか。


「ぬいぐるみ、かわいいですね!」


 南雲さんがやってきた。その後ろから睦月さんも。


「うちのくまの友だちにどうかなあって思って見てたの」

「くまって、異世界の人が中に入ってる?」

「うん、そう」


 睦月さんが笑って、会話に加わってきた。


「でもくまはそのぬいぐるみと話ができないでしょう?」

「そうなんだよね。それを私も考えていたとこ。だから意味がないかなあって」

「でもその発想はいいね。かわいい……というか、優しいね」

「そ、そうかな」


 突然褒められて動揺してしまう。優しいっていうか、単に二人(二匹?)並んでたらかわいいかなーって思っただけなんだけど。


「睦月さんのところは、黒猫なんだよね」


 たしかミュウという名前。睦月さんのところは黒猫のぬいぐるみを通じて異世界の人がコンタクトしているらしい。睦月さんは頷いた。


「そうだよ。私もミュウにお友だちを作ってあげようかな」


 ぬいぐるみが並ぶ棚を睦月さんは見た。私と南雲さんも一緒に見て、三人同じものに目が留まった。


 白猫のぬいぐるみがあったのだ。


 ちょこんとおすわりした小さなぬいぐるみ。青い澄んだ目でこちらを見ている。すごくかわいい。


「買うの?」


 私は睦月さんにきいた。睦月さんは少し首を傾げる。


「うーん、どうしよう。もう少し他のものを見てから考える」


 そこで私たちはまた店内を散策することにした。アクセサリーのコーナーで足が止まる。髪留め、ネックレス、ブローチに指輪。あまり派手なデザインのものはなくて、落ち着いていてどこかレトロで一つ一つが愛らしい。


 アクセサリーはあんまり持ってないんだよね。つける機会がそんなにないから。指輪とか、手が丸っこくて子どもっぽいせいか似合わないし。


「南雲さんは何か買うの?」


 髪飾りを見ている南雲さんに声をかけた。


「迷っているんですけど……」

「こういうのとか似合いそう」


 私はピンクっぽいベージュの、ふんわりとした布でできたリボンのバレッタをとりあげた。南雲さんの髪に合わせてみる。

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