6

「小夜ちゃんがね、カメラが好きなんだよ」


 楓ちゃんが言った。小夜ちゃんはもちろん、睦月さんのこと。あれから会ってない。六人で戦うのもまだ実現していない。楓ちゃんがなんとか実現させたがっているけど。


 楓ちゃんは笑顔で話を続けた。


「写真撮るの上手なんだよ。素敵な写真がいっぱいあるの。私も撮ってもらうんだ。いつもよりずっと綺麗に映る」


 まあでもそもそも楓ちゃん美人だからなあと思う。被写体が良いのだろう。


「じゃあ、ほのかも楓の写真をいっぱい撮ってあげて! この無駄にナイスバディな肉体を! くまもさぞ喜ぶだろう」

「やだー」


 瑞希がふざけて言って、楓ちゃんが困ったように笑っている。それを沢渡さんが面白そうに見てる。


 楓ちゃんも撮ろうと思う。くまが喜ぶ……かどうかはともかく。でも、この瞬間を、この今の私たちを、たくさん撮っておきたいと思ったんだ。




――――




 昼過ぎにお姉さんが迎えに来た。お姉さんは帰る際にケーキ屋に寄ってくれる。ケーキをおごるって。すごく嬉しい! いいお姉さんだな~。


 みんなでわいわい言いながらケーキを選ぶ。沢渡さんはチーズケーキ。瑞希はヨーグルトのムース。この二人はすぐに決まって、残された私と楓ちゃんは決断にとても時間がかかる。


 あれもいいしこれも捨てがたい……とショーケースの中を隅々まで見てようやく決まる。私がイチゴのタルトで、楓ちゃんはシンプルなショートケーキ。タルトの上のイチゴはつやつや光ってて、宝石みたいに綺麗。


 別荘に戻って、さっそくケーキを食べる。沢渡さんがコーヒーを入れてくれて、食堂はいい匂いに包まれた。私は宝石のようなケーキをちょっとずつ崩しながら食べて、他の子たちのケーキも一口もらう。もちろん私のもお返しにあげるよ。


 その後は少し休憩の時間。それが終わって日が傾いてきたら、今度は夕飯作り!


 夕飯はカレーにする。合宿とかキャンプとかって、カレーのイメージでしょ? だからカレー。みんなで賑やかに作っていると、今日一日どこかに出かけていたお兄さんが帰ってきた。お土産にお刺身を持って。近くの海でとれたんだって。


 カレーにお刺身。不思議な組み合わせになってしまったけど。さらにお味噌汁も作ってしまったので、ますますわけがわからなくなってきた。でも気にせず食べちゃう。お刺身は美味しかった。本当に美味しかった。私たちがせっせと作ったものより美味しかった。……まあそういうこともある。


 日が暮れて、お姉さんたちが蛍を見につれていってくれることになった。蛍! 私は初めて! いや初めてでもないな。小さい頃蛍狩りに行った記憶がある。ただ、さっぱり覚えてない。小さすぎて。


 歩いて数分行ったところ。川があって、そこに若干だけど蛍がいるらしい。本当に若干だから、お姉さんたちは、ひょっとしたらいないかもと心配している。それでも私たちはでかけた。懐中電灯を持って、わいわいおしゃべりしながら。


 やがて目的地に着く。畑の傍に流れる細い川、その近くまで来て、お姉さんが声をあげた。


「ほら、あそこ!」


 小さな光が見える。それがすうっと空を飛んでいる。暗い山をバックに、ちょっと頼りなく飛んで、そして止まる。呼吸してるみたいに、光が小さくなったり大きくなったりしてる。


 すごい、これが蛍なんだ。意外とちっちゃい。でもかわいい。初めて見る……初めてじゃないけど、でも私の中ではほとんど初めても同然だから。感動してしまう。


「あっちにもいる!」


 今度は楓ちゃんが声をあげた。続いて瑞希も。「もう一匹いるよ!」


 でもそれだけだった。本当に蛍は若干だった。でも綺麗。小さな世界で、たった三匹で(もっといるかもだけど)、肩寄せ合って生きてるんだねと思うと愛おしくなってしまう。私たちさらに近づいたりはしなかった。蛍が逃げちゃいそうだし。それに、彼らの世界を大事に取っておきたい。私たちが足を踏み入れてはいけない気がする。


 満足して帰路につく。帰っても寝る時間には早くて……夏のお楽しみはまだあるよ。そう、今度は花火!


 花火を持って庭に出る。水の入ったバケツも用意。沢渡さんがろうそくに火をつけてくれた。何からやろうか、色とりどりの花火を見て迷ってしまう。


 華やかなものから手をつけて、ねずみ花火にきゃあきゃあ言って、瑞希が楽しそうに花火でハートを描いたりして、いつの間にか時が過ぎていく。最後に残るのは線香花火。うんうんやっぱりそうだよね。締めはこれじゃないと。


「線香花火ってさあ、なんかおまじないがあったじゃない?」


 瑞希が花火を手に持って言う。


「おまじない?」

「そう、なんだっけ……。花火が消える前に願い事を言う?」

「それ流れ星じゃない? 線香花火って意外と長いから、願い事言いやすそうだね」

「違うのかな、じゃあなんだろう、えーっと……」


 しばし考える瑞希。そしてはっとした顔になった。


「そうだ! 好きな人の名前を言うんだよ。えっと、たしか……何人かで同時に線香花火に火をつけて最後まで残った人が好きな人の名前を言う。そうしたら両想いになれるんだっけ?」

「やってみる?」


 沢渡さんが笑いながら言った。


 私は反対じゃないし、楓ちゃんもそうだった。そこで四人、輪になってしゃがんで、線香花火に火をつける。好きな人、か。


 ……うーん、誰だろう……。一瞬、くまのことが頭をよぎった。くまか……。もしくま自身が言うように、本当に奇跡のように美しかったら、好きになるかもね。私はつくづく面食いだなあ。でも瑞希の言うように、人型じゃなかったら……嫌い、にはならないだろうけど、恋愛対象じゃないかもなあ……。


 そもそもくまが私を恋愛の相手として見てるとは思えない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る