5

「六人で戦うこともあるかも!」


 楓ちゃんが楽しそうに言った。瑞希が苦笑いする。


「私たち四人と、睦月さんと、その相棒?」

「そう! 六人一緒に戦うの!」

「それは強そう」

「六対一って、むしろ敵が気の毒なレベル」


 沢渡さんが真面目な顔して言う。


「じゃあ、敵も分裂する!」

「いいね、……っていいのか?」


 瑞希が首を傾げた。


 六人で戦う、か。いいな、悪くないなと思う。実現しないかな。


 ……でも。


 くまはどう思うかなあ。他の魔法少女の話をするのも、気が進まないみたいだった。それに「縄張り」がある、とも。たぶん、くまは、魔法少女たちが交流するのを望んでいない。けれども――。


 別におうかがいをたてる必要はないよね、って思うのだった。くまの許可を取ることもない。たまたま――そう、たまたま私たちが敵と戦おうとしたところに、睦月さんたちがやってくるかもしれないしね。昨日みたいに。


 それで共闘することになっても、別に悪くはないんじゃないかな。




――――




 楓ちゃんの行動は素早かった。その日のうちにたちまち睦月さんに連絡を取ったそうで、そしてとんとん拍子で六人で会おうよという話になった。


 そんなわけで、ある日曜のお昼、私たちはハンバーガーショップに集っていた。


 睦月さんとやってきたのは小柄な女の子だった。ショートカットにくりくりした目、元気いっぱいのかわいい顔をしていて、小動物のような愛らしさがある。高い声で私たちに挨拶をする。


「初めまして! 南雲律なぐもりつです!」


 ピンクの春らしいフェミニンなスカート姿で、モノトーンで決めた睦月さんとは対照的。たしかに、明るくてかわいい子だなあ。


 六人で賑やかにハンバーガーを食べ始める。魔法少女になったいきさつ、これまでの戦い、語ることはたくさんある。楓ちゃんは睦月さんが魔法少女だったことが本当に嬉しいみたいで、ずっと睦月さんの隣ではしゃいでるし、南雲さんのことも気に入ったようだ。


 南雲さんは初めは少し緊張していたようだけど、すぐに慣れて、いろいろおしゃべりしてくれる。


「南雲さん、どういう魔法が使えるの?」


 楓ちゃんが尋ねる。南雲さんはちょっぴりいたずらっぽい笑みを浮かべて、睦月さんと顔を合わせた。


「私の能力は――」

「ちょっと変わってるのよね」


 睦月さんもいたずらっ子のように微笑む。変わってる能力? どんなものなんだろう。


「空間に直接働きかけるんです」


 南雲さんはきらきらした目で私たちに言った。空間? 直接働きかける、ってどういうこと?


 疑問符を浮かべる私たちに、今度は睦月さんが言う。


「空間そのものを壊してしまうというか……。まあ、見ればびっくりするわよ」


 火とか水とか、そういうわかりやすいものじゃないんだ。睦月さんは続けた。


「後藤先生がね、こんな能力を持つ魔法少女は今まで会ったことがないっていうの。相当珍しいみたいね」


 魔法少女の知り合いがいっぱいいそうな後藤先生が珍しいという……。私はあらためて南雲さんの顔を見た。えへへって感じで得意そうな笑顔で、その姿はちんまりとかわいらしく、そんなにすごい能力を持っているとは思えない。


 ハンバーガーを食べ終わり、けれどもまだ日は高い。これからどこかで買い物でもしていかない? という話になって、みんなで店を後にする。その前に私はちょっとお手洗いを借りる。南雲さんもついてくる。


 私の方が先に個室から出てきて、手を洗っていると、ふと嫌な気配がした。敵だ。どうしようかと思っていると、すぐに南雲さんが出てきた。そして困惑した眼差しで私を見る。


「あの……ここって……」

「うん。なにかいるよね」


 南雲さんも魔法少女だからもちろん敵の気配が分かる。私は考えた。さてどうしようか。さっさとやっつけるべき? 他の子たちも呼んでこようか。


 異空間に入るまでは敵の姿はわからない。のではあるのだけど、魔法少女を長くやっていると、敵の強さなどはぼんやりと予測できるようになる。たぶんここにいるのは……そんなに強くない。むしろ雑魚といってもよい。私と南雲さんだけでなんとかなるんじゃないかなあ。


 そもそもここのトイレ、狭いし。六人入ったら窮屈そう。もっとも変身したらすぐに異空間に入るから実際の広さはあまり関係ないことではあるけど……。うーん。私は迷い、そして南雲さんに言った。


「二人でちゃちゃっとやっつけちゃおうか?」


 南雲さんの能力がどんなものか見たいし! 敵をやっつけることより、むしろそっちのほうに興味津々。私の提案に南雲さんは頷いた。


「すぐに片付くと思います」


 南雲さんにも敵の強さはわかるみたい。私たちは変身することにした。




――――




 そこは絵本のような世界だった。私と南雲さんは土の小道に立っている。周りは森。鬱蒼とした森ではなくて、丸くて可愛らしい木が等間隔にお行儀よく並んでいる。可憐な白い花も咲いてたりして、小鹿がひょっこり木の陰から出てきそう。


 小道の先には丸こっくて愛らしい木のおうちがある。看板があって……それを見るに、どうやらそこはハンバーガーショップ? レトロなハンバーガーが描かれた、黄色と青のお洒落な看板。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る