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「それはさておき」


 沢渡さんの声がした。「なんで睦月さんは私たちが魔法少女だって知ってたの?」


 そうだ。それをまだ話してなかった。敵を倒した後、その辺の事情を私と瑞希は睦月さんから聞いたのだった。


「あのね、後藤先生が関係してるの」


 後藤先生は中二の時の私たちの担任だった先生。私のお母さんの親友だった人でもある。そして――お母さんと後藤先生は過去に魔法少女だったのだ!


 二人ともこの学校の卒業生で。で、この学校の生徒だったときに、魔法少女をやってたんだって。


 ということを、私たちは以前、先生の口から聞いた。後藤先生が言うには元魔法少女はたくさんいて、先生は彼女たち何人かと知り合いらしい。


 でも現魔法少女の知り合いもいるとは知らなかった!


 そもそものきっかけは、睦月さんが先輩の魔法少女と出会ったこと。その先輩から後藤先生のことを紹介された。後藤先生は――なんというか、魔法少女のネットワークを持っているっぽい。睦月さんと後藤先生が出会って、先生がうちの学校の先生であることを知って、睦月さんは楓ちゃんの話題を出して、そして、楓ちゃんが魔法少女であることを知ったんだって。


 この前うちの学校の近くにいたのは、後藤先生を訪ねに来ていたから。この時点で既に、睦月さんは私たちが魔法少女だって知ってたそう。だったら言ってくれればよかったのにーって、思わず本人に言っちゃったけど、睦月さんはくすくす笑いながら、こんな話唐突にされてもびっくりするばかりでしょう? って返してきた。まあ確かに。


「なんだか……後藤先生がいろいろすごい人?」


 話を聞いて、沢渡さんが言った。


 すごい人……なのかどうかはよくわからないけど。でもとりあえず、


「元魔法少女、現魔法少女の知り合いが意外とたくさんいるのかなあ?」


 と、私は答える。続けて、


「なんかね、後藤先生は魔法少女について、もっと詳しいことを知りたがってるみたい」

「詳しいこと?」

「うん。私たちがどういう存在で、なんのために戦っているか……。えっと、なんのために戦っているかは一応明らかになってるよ。異世界からの力で姿を変えられたものを元に戻すためでしょ? でもね、その異世界がどういうところなのか、そもそもよくわからないし……」

「くまはやたらと秘密が多いし」


 瑞希が言う。眉間に少ししわを寄せて、


「あいつは何かと隠したがる」


 うん。そうなんだ、秘密主義っていうか。私はくまの味方だし、信頼もしている。でも話してくれないことが多すぎる。


 私たちの学校以外にも魔法少女がいるなんて、知らなかったし。


 睦月さんが魔法少女だったってこと、大ニュースなので、私は家に帰って真っ先にくまに話した。くまは少し動揺したようだった。


「魔法少女って、意外とたくさんいるんじゃない?」


 私はくまに尋ねてみた。くまは迷って、ためらいがちに口を開いた。


「そう……、たくさんはいないけれど……」

「世の中の全部の学校に、一人くらいはいるんんじゃない?」


 後藤先生によると、魔法少女は大体二、三人のチームになってるらしいから、一人ではなく複数はいる。各学校の魔法少女集めて、総会とかやると面白いかも。いれば、の話だけど。


「そんなにはいない」


 今度はきっぱりとくまは言った。声の感じからして、この話にはあまり乗り気ではないことがわかる。


 くまはややそっけなく続ける。


「異世界に通じる穴があるのは、確かに君たちの学校だけではない。穴の数だけ、それをフォローする魔法少女も必要となる。けれども、魔法少女の数は多くないし、互いにばったり出くわすなんてこともほとんどないだろう。それぞれの……えーと、なんていうか、縄張り……」

「縄張り」

「言い方は悪いが、縄張りみたいなものがある」


 それはくまとその仲間たちの間にも? と思う。くまは、なんだかよくわからないけど組織のようなものに属しているらしい。そこの人びとは、魔法少女とこんなふうにコンタクトをとることがお仕事。らしい。


 くまは仲間のことを「私たち」と呼ぶ。たぶん、強いつながりがあるんだろうと思う。けれど具体的な仲間の話はしないし、そこでの横のつながりとか縦の関係とか、それがどうなっているのか、私にはよくわからない。


 本当、わからないことだらけだなあ。


 後藤先生が知りたく思う気持ちもわかる。私だって、知りたいもの。でも聞いても教えてくれないし、くまは教えたくないみたいだし、後藤先生は知りたいみたいだし、私だって――。ああ、なんだか板挟みだー!


「睦月さんに相棒はいないの? 魔法少女の」


 沢渡さんが質問する。私は回想から戻ってきて、沢渡さんに答えた。


「いるよ! 私たちはまだ会ってないんだけど」

「えっ! 誰なの!?」


 楓ちゃんがくいついてきた。「私の知ってる子!?」


「ううん。知らないって」


 これも、昨日の戦いの後に聞いた話。私は楓ちゃんに説明する。


「一学年下の子なんだって。睦月さんが魔法少女になったのは楓ちゃんが転校した後で、その相棒の子に会ったのもその頃で。だから楓ちゃんの知り合いじゃないって」

「なーんだ」


 楓ちゃんが拍子抜けした顔をする。けれどもすぐに気を取り直した。


「どんな子なんだろう。詳しく聞いた?」


 私は首を横に振る。


「ううん。でも明るくてかわいい子だよって」

「会ってみたいなー」

「確かに気になるね」


 沢渡さんも話に入ってきた。「私たち以外の魔法少女って興味ある。いろいろ会ってみたいし、話も聞いてみたい」


「うん」


 魔法少女はそんなにはいないって、くまは言ってたけど。でも会ってみたいな、他のいろんな魔法少女たちに。でもお互い苦労や楽しさや体験談をあれこれ語りあったりしたいし、本当にどこかで集まって交流できたりしないかな、と思う。

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