2
私と瑞希はある場所に注意をしていた。
図書館やホールが入ってる市の文化センター。その駐車場の一部。建物の陰になって、あんまり人気のないところ。そこで、敵の気配を感じたのだ。
下校途中に二人で図書館に寄って、その帰りの出来事だったのだけど、そのときは敵を見つけられなかった。
そこで翌日、放課後また同じ場所に行くことにした。
人のいない、車が二台ほどぽつねんと止まっている、ひっそりとした場所にある駐車場。私と瑞希はそこに立って、緊張して辺りを見回した。
「……いる。ね」
「うん」
魔法少女の活動ももう二年ほどになるから、慣れたものだった。敵が確かに近くにいる。でもそれが何なのかはまだわからない。私と瑞希はとりあえず変身することにした。近くの裏口から入って、そこの廊下で、上手く人がいなければ、変身を済ませて――など言ってると、突然声がした。
「一瀬さんと、西川さん?」
誰!? って驚いて大げさに振り返ってしまう。そこにいたのは睦月さんだった。
ついこの間、学校近くで会った楓ちゃんの友だち。
今日もセーラー服姿だった。そして今日も綺麗な長い髪をして美しい。睦月さんは私たちに笑顔を向けた。
「また会えるなんて。しかもこんな短期間に」
「え、えと……」
睦月さんに再会できたのは嫌じゃないけど。でも、今はちょっと取り込み中というか、これから変身しようとしていたところなんだよー! なるべくならば早くお引き取り願いたい。慌てる私の横で、瑞希は冷静だ。
瑞希も笑顔で睦月さんに言う。
「よく私たちの名前を覚えていたね」
「楓の友だちだから。それに以前から話を聞いていたし」
「そうなんだ」
睦月さんはまたなんでこんなところにいるんだろう。前のときはうちの学校の先生に会いに来てたわけだけどさ。またその先生に会って、その帰りに図書館に寄ったのだろうか。
「図書館に来たの?」
私は睦月さんに尋ねる。そして建物を指差しながら、
「図書館はこの中」
いや、知ってるだろうけどさ。図書館に用があるなら、早々にそちらに行ってもらおうと思って。楓ちゃんの友だちなのに、こんな邪慳な態度は申し訳ないと思うけど、タイミングが悪かった……。
睦月さんはくすりと笑った。
「ここ、変なところだよね」
え? と私は不思議な気持ちになる。建物の裏手であまり人が来ないところだけど、現に今は私たち三人しかいないけれど、変、ということもないじゃない?
「変かな?」
瑞希も戸惑ったように笑う。睦月さんはさらに笑った。
「変だよ。異質なものの気配がする。この世界には本来いないものの」
……えと。何を言ってるんだ? 確かにここには敵がいる。その気配がある。でもそれがわかるのは私たち魔法少女だけで……。
「わかるの?」
とっさに私は尋ねていた。睦月さんはまっすぐに私を見て、魅惑的、とでもいえる微笑みで私に言った。
「わかるよ。だって、私も魔法少女だもの」
――――
ゆっくりと、睦月さんが私たちに近づいてきた。落ち着いた、優雅な足取り。私は、睦月さんの言葉を反芻していた。
……魔法少女? 私も魔法少女? 確かにそう言ったよね?
魔法少女ならば納得だなあ、この場の変な空気がわかるのも。……って、違う、そうじゃないよ! 魔法少女ってどういうこと? 睦月さんが魔法少女っていうのは……。
「私たちだけじゃないんだ。魔法少女なの」
気の抜けた声で瑞希が言う。瑞希もすごく驚いているようだ。感情が追い付いていないような。
睦月さんが穏やかな微笑みを浮かべてそれに返す。
「そうだよ。あなたたちだけじゃない。私だけでもない。この世界にたくさんいるよ」
うん……私の場合、姉も母も魔法少女だしね。たくさんいてもおかしくはない……かなあ。
でも、私の学校だけじゃなかったんだ! 魔法少女がいるの。ということは、睦月さんの学校にも異世界に通じる穴があるのだろうか。穴、あちこちに存在するの?
「変身して、敵をやっつけようとしてたんでしょう? 私も手伝う」
相変わらず、睦月さんは落ち着いていた。私たちだけが慌てふためいている。そこで私ははたとあることに気づいた。なんで睦月さんは私たちが魔法少女だと知ってるのだろう。
魔法少女という事実は周囲に秘密にしておかなければならないはず。楓ちゃんが教えるわけもないだろうし。
私は大きな声で睦月さんに尋ねていた。
「ど、どうしてわかったの!? 私たちが魔法少女だって」
「ある人に教えてもらったから」
「楓ちゃん……じゃないよね」
「ううん違うよ」
睦月さんは笑顔のまま小首をかしげた。「ね、変身しようよ。先に敵をやっつけちゃったほうがいいんじゃない?」
「う、うん……」
話は後回し、ってことらしい。
私たち三人はとりあえず建物内に入った。狭い廊下には幸いだれもいない。荷物を置いて変身を済ませる。睦月さんが魔法少女だというのは、本当に本当のことだった。
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