続・少女と魔法と小さな冒険
原ねずみ
第一話 黒とピンク
1
私の学校には魔法少女がいる。
……らしい、ではない。これは本当に確かなこと。だって、私がその魔法少女なんだから!
それは今から二年ほど前のこと。お母さんからもらったぬいぐるみのくまがいきなりしゃべりだして、私は魔法少女になったの。かわいい服に変身して敵と戦うんだよ。この仕事? は結構気に入ってる。
でもわからないこともたくさんある。
私を魔法少女にしたのは、異世界のくまだ。ううん、くまじゃない。異世界の誰かが私のくまのぬいぐるみを動かして私とコンタクトを取っている。でもその正体はよくわからない。教えてくれないから。でも本来の姿はとっても美しいんだって。奇跡のようなんだって。ほんとかな?
ともかく、くまの正体はわからない。異世界がどんなところかも。くまは秘密主義だ。そのことに――ちょっぴりもやもやしながらも、でもまあそれでいいかな、と私は思ってたんだ。
――彼女に会うまでは。
違う。知りたがっていたのは彼女で、私じゃない。その女の子はやっぱり私と同じ魔法少女で、そして私と違うのは、自分の置かれた状況に満足していなかったというところだ。彼女は知りたがっていた。魔法少女というものを、一体これがどういう存在であるのかということを。
そして、欲しがっていた。彼女の現在を、変える力を。
私と彼女は魔法少女の秘密を知ることとなる。でも彼女に会ったときは、もちろん当然だけど――そんなことは全く予感していなかった。
――――
季節は春。私たちは高校一年生。
私たち、っていうのは、私と瑞希と沢渡さんと楓ちゃんの四人。この学校の――魔法少女四人組!
これは周りには内緒なんだけどね。
前はみんな同じクラスだったこともあったけど、今は離れ離れ。私と沢渡さん、瑞希と楓ちゃんが一緒のクラス。ちょっぴり寂しいけれど、仕方がない。
クラスは別れたけれど、私たちは変わらず仲良し。その日も四人で下校をしていた。うららかな日で、桜の花はとうに終わっていて、でもまだ少し肌寒いこともあって。私はいまだに電気毛布を使っていたので、瑞希に呆れられていた。
四人でのんびりと会話をしながら帰っていく。学校からバス停までの道のり。その途中で、楓ちゃんが足を止め、声をあげた。
「小夜ちゃん!」
楓ちゃんの視線の先に、女の子がいる。私たちと同い年くらいの、けれども違う学校の子だ。私たちはブレザーだけど、彼女はセーラー服。濃い色の、少しレトロなお嬢様っぽい制服だ。どこの学校の子だろう。
女の子がこちらに向かって歩いてくる。艶やか長い髪が印象的。近づくにつれてはっきりと顔も見えてきた。大きな少し垂れた目。柔らかく優しそうな雰囲気。綺麗な子だなーって思ったんだ。
「久しぶり」
女の子が楓ちゃんを見上げて笑った。楓ちゃんは背が高い。女の子も、平均よりやや高い。私より、何センチか上かな。すっきりと背筋が伸びて、姿勢がいい。
「どうしたの、こんなところで!」
楓ちゃんが嬉しそうだ。楓ちゃんの友だちかな。楓ちゃんは中二のときに転校してきたから、たぶん、前の学校の友だち。
私の推測は当たっていた。楓ちゃんが私たちにその女の子を紹介した。
「前の学校の友だちだよ!
「初めまして」
睦月さんが、こちらに向かって少し頭を下げた。さらさらとした髪が揺れる。うん、美人さんだなあ。楓ちゃんの友だちかあ。この二人のコンビは校内でさぞ目立っていただろうに。楓ちゃんも美人だから。
私たちも挨拶をする。そして今度は楓ちゃんが睦月さんに私たちを紹介した。
「でもどうして? なんでこんなところにいるの?」
にこにこ笑顔で不思議そうに楓ちゃんはきいた。ここは私たちの学校の近くだ。楓ちゃんは以前は隣の隣の市に住んでいたのだ。通っていた学校も同じ市にあったという。
「楓が今通ってる学校に用事があって」
さらりと睦月さんは言った。楓ちゃんが驚いた顔をする。
「用事? なんで?」
「うん、そこの先生とちょっと知り合いというか……」
「えっ、誰なの?」
楓ちゃんは尋ねるけれど、睦月さんはあまりはっきりと言いたくないみたいだった。ごまかすように笑って、
「この話は、また、今度ね」
何か、私たちに聞かれたくないことかな、などと思ってしまうけれど。でも睦月さんは私たちが邪魔だとかそんなそぶりを見せない。そして、じゃあまた、と言うと学校のほうへと歩いていった。
「こんなところでばったり出くわすなんてびっくり!」
その後ろ姿を見送りながら楓ちゃんが言う。
「前の学校でね、一番仲良かった子なんだよ。今でも頻繁に連絡取りあってるし」
楓ちゃんは楽しそうに、前の学校のことや睦月さんのことを語り始めた。私たち四人はまたゆっくりと歩き出す。
「どの先生と知り合いなのかな」
楓ちゃんの疑問に瑞希が言う。
「私たちの知ってる先生なのか」
うちの学校、結構先生がいるからなあ。
「篠宮さんが前にいた学校から移ってきた先生とか?」
沢渡さんが言う。それはあるかもしれない。私立だからあまり異動はないけど、でも先生たちの顔ぶれは多少変わる。
誰なんだろうねえ、とのんきに話しながら私たちは歩いていく。うららかな、平和な春の午後だ。
その時は――そうだったのだ。
――――
前にも言ったけれど私は魔法少女なわけで、そのため、魔法少女としての務めを果たさなければならない。
敵が現れたら、すばやく出動! ……とはなかなかいかないときもあるけれど、でも迅速に対応はしたい。それから、異変があるかどうかのチェック。敵が現れる少し前に、その予兆を感じ取ることができるのだ。
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