3.災難の前兆

「キミたち、また派手にやってくれたね……」


 紳士然とした白髪老人。彼の覇気が社長室に充満していた。標的はもちろんエグゼキューターとメタルヨロイである!

 彼らは小山田たちの身柄を回収業者に預けた後、社長直々に呼び出しを喰らったのだった。


 社長の経歴は凄まじい! 陸自元帥りくじげんすいから警視総監けいしそうかんに転職、定年後に(株)旭日代行サービスを設立。 七十五歳となった今なお、最前線でテロリストと戦い続ける天下無双の男である!


 そんな恐ろしい男の額に、バキバキと青筋が浮かび上がる!


「つい先週もスカイツリー壊して都知事に怒られたばっかりでしょ? どうして同じ過ちを繰り返すの……?」


『スミマセン……』


 メタルヨロイは平身低頭。だがエグゼキューターはどこ吹く風!


「どうせ廃ビルなんか残しといても、別のテロリストが住み着くだけだよ。いっそ壊しちゃった方がマシだって!」


「そういう話じゃない! 派手にやるのは構わんが、被害額は抑えろと言っているんだ! 見給え、この見積書をッ!」


 社長はケタ違いの書類を二人に突き付けた。件名は、道路災害復旧工事費!


「君たちがブッ壊したビルの破片が道路に落ちて、大変な損害になってるんだよ! 道路ってめっちゃ高いんだからね!? 平方メートルあたり何百万の世界だよ!? おかげでウチは、保険会社にも愛想尽かされる寸前だ!」


 社長の怒声もエグゼキューターには響かない! 反省の色が見えるどころか、口笛を吹きながらメタルヨロイを磨き出す始末である!


 それに比べ、メタルヨロイは疲弊していた。巨体に見合わず小心者の彼にとって、説教は凄まじいストレスになる。


(というか被害額さえ押さえれば派手にやってもいいのか……?)


 社員が無茶苦茶なら社長も無茶苦茶だ、と彼は内心呟いた。


「聞いているのか、決戦兵器メタルヨロイ!」


『は、はいっ!?』


「とにかく! エグゼキューターくんはこの調子だから、君がしっかりしてくれないと困る! テロリストなんか最悪殺しちゃっても、ボクがなんとか揉み消すからさァ! 道路とかビルは気を付けてよねマジで!」


(なんで俺はこんなヤバイ会社に勤めてるんだ……?)


 その時、固定電話が鳴った。社長は顔を顰めながらも「失礼」と呟いて受話器を取る。


「私だ。おお、久しいな。……なに、本当か? 分かった。すぐ手配しよう」


 受話器を置いた社長は、あまりにも不気味な微笑を二人へ向けた。


「たった今、とても素晴らしい仕事が入ったよ」


 メタルヨロイの背筋が凍り付く。彼は知っているのだ。社長が笑う時。それは往々にして災難の前兆であることを。


「喜び給え。次の仕事は、何をどれだけ壊してもとがめられない。君たちにはピッタリだろう?」


『……それ、本当に大丈夫な仕事なんですか?』


 恐る恐るたずねると、社長は満面の笑みで答えた。


「大丈夫大丈夫。今、


『は?』


「忙しくなるよ。いやはや参ったね本当に……」


 そう言って白髪色のヒゲを撫でる彼の表情は、いつになくにこやかなものだった。


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