4.株主総会阻止作戦
護送トレーラーのコンテナルームで揺られながら、メタルヨロイはウロウロていた。心ここにあらずといった振る舞いに、流石のエグゼキューターも見かねたらしい。
「バッテリーの無駄だから大人しくしてなよ」
『バカ言え! いつプロの暗殺集団が襲ってくるか分からねぇんだぞ!? これが大人しくしてられるか!?』
「相変わらず小心者だね。アンタなら暗殺集団どころか、ロケットランチャーが直撃したって大丈夫だって」
『俺は心配性なんだよ!! あぁ~どうしてこんなことになっちまったんだ……』
メタルヨロイは昨日の緊急会議を思い出していた……!
~ ~ ~
「……株式会社、抹殺商会?」
「その通り。総理大臣
社長がプロジェクターに企業概要を映した。抹殺商会。主な事業は武器製造・販売。テロリストが増えつつある今、便利で強力かつ低価格な武器を提供する。
それが表向きの顔。
「だが実際は、暗殺者集団を抱えて世界規模で暗躍する反社会組織――だそうだ」
『つまり、今回の任務はそいつらの
「いや。即急に対応しなければならない案件は別にある」
画面が切り替わる。浮かび上がったのは、誰もが一度は使用したことがある世界的通販組織のロゴマーク。
「神の息吹……大層な名前だが、案外伊達ではないかもね。みんな知っているとおり世界最大のインターネット通販を展開している会社だよ」
『アメブレと抹殺商会に、一体なんの関係が……?』
「なんかね、吸収合併されるみたい。アメブレが、抹殺商会に」
「『ハァァァァァァァァッッッ!?!?』」
その場にいる誰もが絶叫したッ!! 天文学的な資本金・株式を保有する世界最大の企業を吸収合併だと!? それは……それは物理的に可能なのか!?
「可能さ。なんせ抹殺商会は、多数の暗殺者集団を抱えているのだから」
「なるほど。
「さすがエグゼキューターくんは理解が早いねぇ」
『ちょ、ちょっと待ってくださいよ! そもそも抹殺商会は、対テロ組織用の武器を取り扱ってる会社だろ! 何が目的なんだ!?』
「簡単な話さ、メタルヨロイ。
「エグゼキューターの言う通りだ。金、暴力、兵器。根源的な恐怖による世界掌握。抹殺商会の暗躍を許すわけにはいかない」
メタルヨロイは身震いした。想像以上にスケールの大きい話である! そこに自分が巻き込まれているのが、未だに信じられない!
「この破滅的未来を阻止するには明日、ニシタマ・大ホールで行われる抹殺商会の株主総会を阻止するしかない……!」
株主総会――即ち、会社法第三百九条ッッ!! 原則、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席しなければ総会は成立しないッ!!
「要するに、だ。株主総会が始まっちゃう前に再起不能にすればいいんだよ。抹殺商会の主要株主は、ざっと十人。つまり総会までに六人を再起不能にすれば我々の勝ちというわけだ。単純なゲームだ、面白いだろう?」
プロジェクターのリモコンを素手で砕き散らすと、社長は不敵に微笑んだのだ。
~ ~ ~ ~
『いや無理! 無理だって! プロの暗殺者集団とどうやって戦えってんだよ!! こちとらただの委託業者だって!! ウワァァァ!!!』
「安心しなさいって。アンタはアタシが作った最強の兵器だよ?」
『だから信用できねぇんだよォォォ! アァァァァ!』
床に向かって頭を叩きつけるメタルヨロイに、エグゼキューターは冷ややかな視線を送る。
「まぁ、気持ちは分からないでもないよ。普通に国が動くレベルの作戦だからね。でも自衛隊が解体されてる以上、警察が……つまり、
『俺はただの会社員なのに、どうしてこんな危険な目に遭わなくちゃいけないんだ……』
メタルヨロイの胸に、問いが蘇る。
自分が戦い続ける意味は一体どこにあるのだろう?
決して高くはない給料で、上司にどやされて、命の危険をかけて――自分の代わりはどこにでもいるのに、それでもやらなくてはいけないのか?
『逆にお前は、どうしてそんなに冷静でいられるんだ?』
エグゼキューターは元来の性格が大雑把、面倒くさがり、熱しやすく冷めやすいという社会人にあるまじき三種の神器を取り揃えているくせに、どんな時も楽しそうに仕事をしている。その原動力は一体どこから来るのだろうか?
「冷静っていうか、別にアタシはこの仕事、危険だと思ったことないからね」
『オイオイ正気か? 俺なんか一週間に八回くらい危険だと思ってるぜ!』
「実際どんだけ危険でも、アンタが守ってくれるでしょ?」
『………うーん』
メタルヨロイは頭を抱えて床に蹲り、ビーガガーと電子音を鳴らした。
(いつか本当にサラッと死にそうだから、コイツは目が離せないんだよな……)
振り返ってみると、仕事の前はいつも同じことを考えているな、とメタルヨロイは思ったのだった。それも腐れ縁の宿命なのか。
『ああ……コンテナ運びとかそういう平和な仕事がしてぇよ……』
メタルヨロイは一人愚痴った。エグゼキューターはいつの間にかすやすやと寝息を立てていた。
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