第8話「辺境は危険がいっぱい」

 マルティニーク星系で星系警備隊ガーズに拘束されそうになったが、運よくまともな警備隊士官に当たり、拘束されることなくトリニテ星系に飛ぶことができた。


 超空間に入り、ジョニーたちの間にのんびりとした空気が漂っている。少なくとも通常空間に出るまでは何も起きようがないし、トリニテで待ち伏せされているにしても、まだ五日間は超空間にいるのだから、空気が緩んでも文句を言う気はない。


「トリニテ、レポス、レサント……田舎の星系ばかりを飛ぶんだな」と、ウイスキーがなみなみと注がれたグラスを持ったジョニーがぼやく。


「確かにグレナダ以外は酒場がないところばかりだ。もっともグレナダでも上陸はしないつもりだ」


 そこで盛大に溜め息を吐く。


「酒は飲めるんだ。酒場はバルバドスまで我慢しろ」


 こいつの場合、酒場に行くのが人生唯一の愉しみというところがある。今回のルートを行けば、目的地であるバルバドスに着くには一ヶ月以上掛かる。バルバドスの手前のグレナダには有人惑星があるが、辺境フロンティアマフィアが巣食っている治安の悪いところだ。


 そのため、特別な理由がない限り、寄港するつもりはない。もちろん、ジョニーが飲みに行きたいというのは特別な理由には当たらない。まあ、当たり前だが。


「トリニテの補給基地ベースに酒場くらいあるんじゃないの? 燃料を満タンにするなら、五、六時間は掛かるんだし、飲みに行く時間くらいできるでしょ」


 ヘネシーがジンバックをちびちび飲みながら、気のない感じで聞いてきた。


「ロランベースには正規の酒場はなかったはずだ。精々、作業員たちが集まる集会所くらいだろうな」


「そんなところじゃ、行った気にならんな……」とジョニーが呟く。


 そんな話をしていると、乗客であるブレンダ・ブキャナンと娘のローズが呆れたような表情で俺たちを見ていた。

 それでも一週間近く一緒に過ごしていることから、以前のようにローズが突っかかってくることもない。



 六日後、俺たちはトリニテ星系にジャンプアウトした。

 トリニテは赤色矮星を主星とする恒星系で、入植する可能性すらなく、航路としての価値も低い。


 そもそも最辺境ともいえるところにあり、更なる星系探査の拠点として開発されていたが、新しい航路が発見されることなく、探査自体中止されている。


 帝国としては放棄したいのだが、海賊や反政府活動家の拠点となりうるため、仕方なく維持しているだけで持て余しているといっていいだろう。


 ただ、商船が全くいないかといえばそうでもない。有人星系で寄港すると高い管理費を払う必要があるが、トリニテのような星系の場合、軍が維持している施設は実費だけで済むため経費的には安くなる。そのため、海賊に襲われるリスクはあるが、零細企業の商船が稀に使う。


 ジャンプアウトした後、軍の施設がある第五惑星ロランに向かう。この惑星は巨大ガス惑星ガスジャイアントであり、船のエネルギー源となる水素がふんだんにある。


 ロランベースはロランの衛星の一つを丸ごとくり貫いて作られた標準的な基地だ。

 コスト削減のため、ロランの水素と小惑星の金属資源を採取しており、四百メートル級以下の小型艦船は補給と応急補修を行うことができる。


「星系内の艦船の情報を確認してくれ」とドランカード号の人工知能AI、ドリーに頼む。


了解しました、船長アイ・アイ・サー』と軽やかなメゾソプラノの声が返ってくる。


 命じたもののおかしな船がいるようには見えない。というより、航行している船自体が数えるほどしかいないのだ。


『軍保有の採掘船と巡視艇だけですね』


「では、予定通りロランに向かう。だが、警戒は緩めるな」


 警戒しながら漆黒の宇宙そらを進む。


 今回は星系内巡航速度である〇・二光速で航行していた。

 その理由だが、マルティニークにいる間に敵が現れなかったことから、十時間程度のアドバンテージがあることと、計画通りにトリニテに来たと思わせる方が悪目立ちしないためだ。


 商船がいないため、その努力はあまり意味がないが、どこでマフィアと繋がっているか分からない。できる限りの努力をするのは船長としては当然の義務だ。


 結局、何事もなくベースに到着した。

 陰気な感じの軍の補給担当士官と交渉し、エネルギーの補給を行う。


 まさかここまでマフィアの手は伸びていないだろうが、六時間の補給時間中に気の良さそうな下士官から情報収集を行った。


「どうだい、景気は」という俺の軽口に、


「ここで景気がいいなんてことがあると思うか、兄弟?」という返事が返ってくる。


 俺自身は元士官だが、操舵士上がり、つまり下士官だった時代がある。だから、こういう会話は苦にしない。


「マルティニークから来たんだってな。向こうはどうだい?」


「ああ、代わり映えしねぇな……こっちはどうだい?」


「ここで何かあると思うか? と言いたいところだが、最近おかしなことがあったな」


 そう言って下士官がこちらの興味を引くように話す。

 運がいいことに話し好きのようだ。


「おかしなこと?」と俺が話に興味を示すと、嬉々として話し始めた。


「ああ、ここ半月ほどだが、妙にセンテナリオに行く船が多かった。それも堅気には見えねぇ、怪しい奴らだ」


「マフィアの連中か?」


「さあな。話をした感じじゃ、間違いなく堅気の商人じゃねぇ。まあ、それを言ったら、あんたも真っ当な商人には見えねぇがな」


「おいおい、こんな誠実な商売人を捕まえて、それはないだろう。我がトレード興業有限会社は“誠心・誠意・誠実”がモットーなんだぜ」


 冗談めかして話しているが、下士官の言ったことが気になっていた。

 普段はいがみ合っているマフィアの船がセンテナリオに集まっている。

 それにマルティニークではセンテナリオにいるリコ・ファミリーから連絡が入る前に、妙に連携した動きをしていた。


 これらのことから考えられることはリコ・ファミリーがカリブ星系のマフィアたちに声を掛け、デカイことをやらかそうとしているということだ。


 下士官との雑談を終え船に戻り、このことをクルーと話し合う。


「……っていう感じで、ヤバイ臭いがプンプンする」


 俺が説明を終えると、ジョニーが「マフィアが何をしようが俺たちに関係ねぇだろう」と気のないことを言った。


 こいつは根っからの下士官で、目の前の問題を解決すればいいと思っている。だから、予想通りなのだが、もう少し真面目に考えてほしいと思う。


「リコがマフィアを集めるっていっても、金か力に物を言わさないとタダじゃ動かないよ、マフィアは。リコは結構力を持っているけど、カリブを牛耳れるほどじゃないし……でっかい儲け話でもあるのかもね」


 ヘネシーが割りとまともな意見を言った。


「その通りだが、儲け話が気になるな」


「僕たちには関係ないよ。マフィアの儲け話なんて碌なものじゃないんだから」


「私も気になるわ。今回のうちへの依頼と時期が被りすぎているし、ジャックの言うことを信じるなら、マルティニークのマフィアまで動かしているって相当なことよ。メンツを潰されたから奥さんたちを捕まえるだけにしては大掛り過ぎるもの」


 シェリーもまともなことを言った。内容よりもその事実に驚くが、今は茶化さず頷いておく。


「俺が気になっているのもその点だ。あの奥さんたちを狙っているだけなら、動くのはリコ・ファミリーだけだ。それなら逃げ切れる自信はあるが、カリブ宙域のマフィアがこぞって狙ってくるなら話は別だ」


 有人惑星を持つ星系には最低一つ、マルティニークのような人口の多い星系には複数のマフィアの組織がある。リーワード星系まで含めれば、十や二十はあるはずだ。当然、普段はいがみ合っているから、全部が協力しているんじゃないだろうが、そのうちの何割かが手を結ぶだけで、海賊船や密輸船が二、三十隻にはなる。

 それだけの数から逃げ切るのは無理だし、相手の狙いが分からない以上、何をしてくるのか読めない。


「でも、考えても仕方がないんじゃないの? こんなところじゃ情報収集すらできないんだから」


「そうだな。なら、マルティニークからの追っ手の状況次第だな」


 話し合いを終え、マルティニーク行きのジャンプポイントJPの状況を確認する。既にトリニテにジャンプアウトして十三時間以上経っているから、いつリコの手先の海賊船が来てもおかしくない状況だ。

 しかし、海賊船は現れず、肩透かしを食らった感じだ。


「諦めたんじゃないの」とシェリーが言ってきたが、それには応えず、船の人工知能AI、ドリーに指示を出す。


「航路局に至近の一ヶ月間の民間船のジャンプ記録を確認してくれ」


了解しました、船長アイ・アイ・サー。既に情報は入手済みです』


 さすがに優秀なAIだ。得られる情報は何も言わなくても集めてあったらしい。

 メインスクリーンにデータが表示される。


「了解。センテナリオとレポスに行った船の情報を見せてくれ」


『ではスクリーンに映します。レポス行きはゼロです。これは普通ですね。センテナリオ行きの船の数は通常の倍以上ですね。といっても一ヶ月間の総数で十二隻に過ぎませんが。至近の十五日間に限れば十隻、通常の三倍以上。マルキス星系が封鎖されたにしても異常です。普通ならマルティニーク経由でいくはずですから』


「そうだな。明らかにセンテナリオで何かある。まあ、レポスには向かっていないから、問題はないんだが……」


『ご懸念がおありですか?』


「いや、気になるだけだ。気にはなるが、具体的なことは全く思いつかない。ただの勘だ……」


『では、レポス行きは取り止めますか? カノーアンに向かう選択肢もありますが』


 ドリーの問いにすぐに答えが出ない。

 マルティニークから追いかけてこないということはカノーアンで待ち伏せに向かった可能性がある。

 万が一カノーアンで待ち伏せられた場合、ジャンプアウト直後の危険な状態を狙われる可能性が高い。そうなったら、逃げ切ることはできないだろう。


「予定通りレポスに向かう。どこに向かっても嫌な予感しかしないなら、自力で逃げられるところの方がいいからな」


 レポスに向かった場合、待ち伏せされる可能性は低い。マルティニークからトリニテに行くことは予想できても、その確率は低い。普通ならトリニダードだし、別の星系に向かう選択肢が多過ぎるからだ。

 そしてレポスはその更に先の星系であり、無制限に船が使えるなら別だが、通常なら網を張ることは考えないはずだ。


 補給を終え、エネルギー代の精算を行う際、担当士官から「これからレポスか。何をしに行くんだ、あんな辺境に」と何気なく聞かれる。

 常識的に考えればマルティニークから直行できるカノーアンとセンテナリオに行くとは思わないから、特に意図したものではないだろう。


「金持ちの道楽だよ。チャーターした船で辺境の星系を見て回りたいそうだ。まあ、うちの船は食い物だけは美味いからな」


「食い物? 酒じゃないのか、ドランカード酔っ払いだけにな」


「もちろん、酒も自慢だがな。まあ、酒はうちのクルーが飲んじまうからあまり意味はないんだがね」


「クルー? あんたもだろ? ククク……」


「違いない。ハハハ!」


 そんな会話をした後、船を発進させた。

 既にジャンプアウトから十六時間が過ぎていたが、追っ手の姿は未だなかった。


 その後も警戒しながらレポスJPに向かうが、結局二十四時間の滞在期間中に追っ手は姿を現さなかった。


「諦めたんじゃないかな。こんなところまで追ってくるほど、マフィアも暇じゃないだろうし」


 ヘネシーの言葉にジョニーとシェリーが頷いている。


「そうだといいんだが……まあ、今は考えても仕方がないな。レポスに向けてジャンプするぞ」


 ドランカード号は無事に超空間に突入した。



 五日後、ジャンプアウトを前にクルーたちを集める。


「この先のことを話しておく。レポスにマフィアの船がいなければ、エネルギーの補給を行って、予定通りレサントに向かう。まあ、レポスに奴らがいるとは思えんが、いた場合にはそのままトリニテに戻る。そのつもりでいてくれ」


 ジョニーたちから気のない返事が返ってくる。彼らはマフィアが諦めたと思っているようだ。


 レポス星系もトリニテと同じく、主星が赤色矮星で入植の計画はなかった。ここはペルセウス腕方面への航路開拓の拠点として考えられていたが、探査の結果、有望な航路がなく、ほとんど放棄されている状態だ。


 この星系には第三惑星と第四惑星の間に大規模な小惑星帯があり、更にメドゥーサの軌道には前後にトロヤ群と呼ばれる小惑星の集団が存在する。

 そのため、ここにベースが作られる前は海賊や反政府活動家の拠点となっていた歴史を持つ。


 以前は昔の海賊が隠した財宝が眠っているという噂が絶えず、一攫千金を狙う財宝探索者トレジャーハンターが多数いたそうだが、誰一人見つけられず、今では与太話の一つにすぎない。


 その星系にジャンプアウトした。


『JP付近に船舶はいません。確認できる範囲ではメドゥーサの衛星軌道上にある軍の補給拠点ベース付近に小型艇が数艇います。どうされますか?』


 こちらが指示する前にドリーからが報告する。

 第五惑星メドゥーサの衛星軌道上には無数の小惑星が存在し、その一つがメドゥーサベースと呼ばれる補給拠点となっていた。


受動パッシブ系のセンサーで周囲を確認しつつ、予定通りメドゥーサに向かう。ベースで補給後、直ちにレサントに向かう」


 マフィアがいなかったことに安堵するが、同時に過剰に警戒していたと自嘲する。


(警戒しすぎだったようだな。冷静に考えれば、大物のマフィアとはいえ、いくつもの星系に船を送るほど余裕があるわけじゃない……あとはグレナダで地元のマフィアに気をつければいいだけだ……)


 俺だけでなく、ジョニーたちにも笑みが零れている。何だかんだ言っても、やはり待ち伏せを警戒していたらしい。


 メドゥーサはトリニテJPに比較的近い位置にあり、巡航速度でも九時間もあれば着くことができる。

 ここにもトリニテのベースと同じように補給と応急修理ができるようになっているが、トリニテよりも航宙船の航行が少ないここでは最低限の人員しか配置されていない。


「念のため、ベースに連絡を入れておいてくれ。たまに補給できないこともあるからな」


了解しました、船長アイ・アイ・サー


 ドリーがベースに連絡をいれ、三時間後に返信が届くが、特に気になることもなく、ベースに向かっていた。


『レサントJPに帝国軍の哨戒艦隊パトロールフリートが現れました。軽巡航艦一、駆逐艦一、フリゲート艦一、スループ艦二。辺境の標準的なパトロールフリートのようです。メドゥーサに向けて加速を開始しました……本船向けの通信です。メインスクリーンに切り替えます』


 その直後、コクピットのメインスクリーンに、帝国軍大佐の肩章をつけた中年士官が映し出される。太い眉と角ばった顎の融通が利かなさそうな印象を受ける。


「帝国軍辺境哨戒艦隊司令のスミノフだ。貴船の本星系への進入目的および今後の予定について説明を求める。また、メドゥーサベースで事情を聴取する可能性があることを伝えておく。以上」


「面倒そうな奴だな」とジョニーが呟き、「そうだね。見るからに堅物って感じだったよ」とヘネシーが同意している。


 俺はその会話に加わらず、ドリーに指示を出す。


「スミノフ大佐についての情報があれば教えてくれ」


『データベースに少しだけ情報があります。船長用コンソールにデータを送っておきました』


「ありがとう」


 この船には公開情報だけでなく、いろいろな伝手から入手した非公開情報も保存されている。

 すぐにコンソールを操作し、ディスプレイに情報を表示させる。


(ディアジオ・スミノフ、帝国歴九百九十年生まれ……四十二歳か……辺境軍バルバドス星系防衛艦隊所属の大佐。現在軽巡航艦ジュネヴァ1024号の艦長……三十六歳で大佐に昇進後、三十八歳の時に海賊掃討作戦に失敗か。本当に面倒そうな奴に見つかったな……)


 出世コースに乗っていた士官が大きなミスをして左遷されたようだ。

 こういう奴はこれ以上ミスを犯せないと必要以上に慎重になる。つまり、俺たちに問題がないと証明されない限り、この星系を出ていけないということだ。


 そんなことを考えたものの、向こうの問いに回答しなければならない。


「さて、素直に答えた方がいいのか、それとも、適当な理由をつけて誤魔化すのがいいのか。みんなの意見を聞かせてくれ」


 正直なところ迷っていた。

 堅物の軍人に本当のことを言えば、話がややこしくなることは間違いない。公社の支社長夫人を逃がすために辺境の星系をうろついているといえば、本当にそうなのかと疑われる可能性が大きい。それだけではなく、手柄を欲している大佐が俺たちを餌に無茶なことをする可能性すらある。


 ただ、素直に事情を話せば、帝国の貴族の夫人を守るために哨戒艦隊に同行させてもらえるかもしれない。幸い、目的地であるバルバドス星系所属の艦隊であり、少し遠回りするかもしれないが、五隻の軍艦に守ってもらえる可能性がある。

 しかし、その場合でも融通が利かなそうな人物であるため、必要以上にリスクを負う可能性は残る。


「正直に言った方が面倒はないね。あとでばれたらもっと面倒になるから」


 ヘネシーはそう主張するが、ジョニーは小さく首を振り、


「ああいう手合いは俺たちを見下して、碌に話を聞かん典型的なクズ士官だ。適当な理由をつけて向こうが出ていくのを待った方がいい」


「でも、こっちには帝国騎士とはいえ、貴族の奥さんがいるのよ。上手く使えば、守ってもらえるわ。それに後でばれたら軍と揉めるのよ。マフィア相手ならいないところまで逃げればいいけど、軍相手にそれはできないんだから」


 シェリーがまともな意見を言った。


(最近、まともな意見が多い気がする。悪いことが起きなければいいが……)


 そんなことを考えるが、すぐに頭を切り替える。


「だが、今回はマフィアに追われているんだ。あとでばれても緊急避難と言い張ることができるんじゃないか?」


『それは無理だと思います。通信はすべて記録され、軍の公式の航宙日誌ログに記録されます。航宙日誌は裁判でも重要な証拠となりますから、記録されるリスクは避けるべきです』


 ドリーも正直に言う方に賛成のようだ。


「分かった。軍には正直にマフィアに追われていることを話そう」


 俺が結論を出せば、ジョニーも「了解した」と素直に頷く。こいつは根っからの宙兵隊下士官だから、上司が決めればそれ以上は何も言わない。


 帝国軍に向けて通信を行った。その際、センテナリオでの戦闘記録やマルティニークでの星系警備隊ガーズとのやり取りの記録も送付しておく。


「こちらはトレード興業所属の貨客船ドランカード号。俺は船長のジャック・トレードだ。本船が本星系にやってきた理由だが、マフィアに追われている客を逃がすためだ。同時に送った記録を見てくれれば分かると思うが、相手は航宙法違反の上、一方的に戦闘を仕掛けてきた……本船は帝国軍の要請に従い、メドゥーサベースで事情聴取を受ける用意がある。以上」


 通信を終えるが、レサントJPまで四百光分以上あるため、返信が戻る前にベースに入ることになる。

 もちろん、ベースでも通信は傍受できているから、状況は分かっているので、問題はないはずだ。


 第五惑星メドゥーサは赤色矮星である主星の光を受け、赤みかかった灰色の陰気な惑星だ。

 その姿が徐々に大きくなる。


 メドゥーサベースは比較的大型の衛星をくり貫いて作られている。

 こちらからの要請を受け、ゲートが開く。


「ドランカード号は三番埠頭に停泊せよ……」


 港湾担当の下士官の指示に従い、船を三番埠頭につける。

 船から下りると、検疫担当の職員が手続きを行うが、その際に「面倒なのに捕まったな」と笑った。

 話を聞くと、スミノフ大佐は融通が利かない石頭として有名で、規則を何よりも重んじるらしい。


 補給を終えたが、出発するわけにもいかず、船で酒を飲んで待つしかない。哨戒艦隊が到着するまで二十時間以上あるからだ。

 半ば自棄酒だが、飲むこと以外にやることがない。

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