第5話 天人(B)

「(しっかし、随分いるなぁ。本当に私たちが空から来るなって思ってた人、この中に何人いるのかなぁ。)」


 バタバタ倒れていく地上人を見ながら、私はそう思った。

 ”装置”の開発者によると、この音波を感じると、地上人は視覚障害から始まるパニックを起こし、手足への神経伝達系にも異常をきたし、終いには身動きが取れなくなるのだそうだ。


 辛うじて、弓を構えて打ってくるものがいたが、とてもここまで届きそうもないし、彼らの抵抗はそこまでだった。


 地上人が立ち上がることもできなくなったのを確認してから、我々は地上に降り立った。

 これが地上か。土の感触というのは何とも頼もしいものだ。

 天上のものたちはなぜこれに満たされた土地を穢れたものとして扱うのか。


 間をおいて、地上人にかぐや姫と名付けられた、同胞を呼び出す。


 彼女が、家の中に隠されているのはわかっている。


 彼女が地上に堕とされてから、ずっと、定期的に天上から使いを送り続けていた。

 帝が2000人を動員するのも彼女から聞いて知っていた。

 彼女からの情報がなければ、こちらも何らかの損害を覚悟しなければならなかった数だ。


 今日、この日の準備が整うのを、彼女はずっと待ち望んでいたはずだ。


 ようやく彼女が帰ってくる。

 地上人たちには悪いが、私たちにとってはここからが始まりなのだ。


 彼女は天上の闘いのシンボルなのだ。

 それがようやく帰ってくる。


 ふすまが開かれ、かぐや姫が姿を現した。

 当時と変わらぬ姿が天人の目に映ったとき、無意識にその視界は霞んでいくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る