第32話 JK観光! からの廃ビル肝試し!
「それでは警察署に向かいましょう。北に向かわなければならないので、今回は駅を通って」
「ちょぉぉっと待っったぁぁーーー‼」
ナルっちのナビの下、うちらが中央の駅に向かおうとしたら、ほんと唐突にプラっちが回り込んでうちらの道を塞いだ。
「ど、どうしたのプラちゃん? 早く自首しに行かないと……」
「まてまてまてラブっち、いや他二人も。なにホテル出てすぐ警察署直行してんの。生き急ぎ過ぎでしょ風林かよ、罪悪感に至っては火山の如く。そんなせかせか生きたってあたしのポニーテールが揺れるだけだぜ」
「すごい……こんだけ喋っといて中身がゼロだ。もはや才能だよ、プラっち」
「やめてよ褒めないでよメンちゃん、その気になっちゃうでしょ」
頬に手を添えるな、くねくねすんな、色目を使うな!
プラっちのハートのこもった視線をうちは手でおざなりに払う。うちの主観だけどダル絡みにおいて、プラっちの右に出る者はいないと思う。
うちがプラっちのダル絡みをさばいている内に、後ろのラブっちとナルっちがプラ語を解読していた。
「ナルちゃん、プラちゃんがこうなる時ってたいてい……」
「彼女なりの名案を言いたい時ね。思いついた時の興奮で言語野がバグるほどの」
こうなった時のプラっちの対処方法は既に決まっている。
その名案(プラっち談)を速やかに聞いてあげることだった。
「ズバリ! もーちょっと、この街で遊んでからでいーじゃんってはなしです‼」
ということで、うちらは警察署に行く前に……この街を観光することになった。
「 はい、チーーーーーズ! 」
パシャッと、水色のチェキからフラッシュが迸る。
あのヤクザ――猪狩伎から餞別としてもらったこのチェキは、実は昨日うちの救出劇に大活躍していた。
そう、猪狩伎とのツーショット写真だ。本人はその写真を『魔除け』と称して、ラブちゃんに渡したらしい。
『魔除け』って良く言ったもんだなぁって思ったね、うちは。
だって治安の悪い街の南部をうろついてたら、しきりに春木みてーなガラの悪い奴が話しかけてくるけど……みんな猪狩伎とのツーショット写真を見たら逃げていくもん。
「ハッハァーーン‼ どうよ、あたしのナイス提案は! 自首したら、賭け麻雀で稼いだ飛行機代なんて取り上げられちゃうんだし、警察署なんて逃げないんだから、最後くらいパーッと使ってこの街の観光収入を底上げしたって良いっしょー!」
「はいはい、ナイスアイデアウーマン」
なんか変なポーズで自画自賛するプラっちに、適当な賞賛を送っておく。
最初訊いた時はどうなんだって思ったけど……うん、良いんじゃないこれ? 今のうちら、けっこうな小金持ちだし何より、
「わぁっ! ねぇ、この先の坂に教会があるんだって! わたし行きたい!」
ラブっちが楽しそうに笑っているから。
そこは知る人ぞ知る小路の坂道だった。うちらがへばる中、ラブっちは思わぬ健脚を披露して、坂を駆け上がっていく。暑いわ膝が痛いわで散々だったけど、見下ろした坂道の景色は、ジブリに出てきそうな雰囲気の良さがあった。
坂を上った先には教会が建っていた。静謐かつ神聖な聖堂内の空間に、ナルっちは一目で気に入ったらしい。なんでも好きなアニメに出てくる舞台に似てるらしい。……だからって、なんで「
ナルっちの連呼のせいで、お昼ご飯は中華に決定。まさか中華街があるとはね。チャンポンおいしー。
ラブっちのリクエストでアーチ型の石橋を見に行く。橋なんて見て何が楽しいのかと思ったけど、堤防にあるハート型の石を見つけた時はテンション上がった。隠れミッ〇ーみたい。
橋の近くでアイスが売ってたから食べた。ラブっち、あんたの目当てコレだな? バラみたいな形で盛ってくれたカステラ味のアイスは至福の時間だった。
ホテルを出てから、ほとんど歩き詰めで足が疲れてきた頃には、陽が傾いていた。
いつの間にか、けっこうな時間が経っていたらしい。
「はーい、それじゃ、締めくくりとして地方都市によくある廃ビルに潜入してみようぜ~!」
「なんでそうなるの⁉」
「意味が分かりません」
「あんたいい加減にしなさいよ?」
ただでさえぎりぎりの時間帯だってのに、そんな道草食ってる暇ないでしょうが。これ以上遅くなれば、またホテルで泊まることになって諭吉が消し飛ぶ。
「もう諭吉の残機少ないんだから! 警察署行っても事情説明とかあるんだし……」
「日没までまだ時間あるじゃん! 簡単な肝試しだよ。すぐに終わるからさぁ~」
駄目だ、こいつ。完全にノリとテンションだけで言ってる。
言い返さないといけないんだろうけど、疲労感でもうやり取りすら億劫だった。
それはナルっちも同じようで、「ここまで来たら仕方ないわね」と半ば投げやりだった。
「でも、そもそも廃ビルなんてあった? それらしい建物なんて見てないよ?」
「いや、それがさラブちゃん。教会の窓から雰囲気のあるビルが見えたんだよ」
自分のやりたいことに関しては、すごい行動力と知力を発揮するプラっち。
一度チラ見した景色から、方角と距離をだいたい特定して、目的のビルと思しき場所を地図で印をつける。
そうして半信半疑でプラっちに付いて行ったら……件のビルに着いてしまった。
「その能力を、どうして、他のことで、発揮できないのあなたは⁉」
「いやぁ、それほどでも」
「褒めてないわよ‼」
プラっちの肩を掴んで、ナルっちが激しく揺さぶった。対して、うちとラブっちは目の前のビルの様相を見上げて、唾を飲み込んだ。
雨風に晒されたせいなの?
灰色のコンクリートはところどころ黒ずんでいたり、赤錆に覆われていたりと、不気味な色合いをしている。規則的に格子が並んでるけど、窓は抜けてたり割れてたりしていて、そういう不規則的な破壊跡が荒廃感を煽る。ビルの横にはダクトやらパイプやらがいっぱい付いていて、そこを夕陽が微妙に照らし出すせいで、余計に不穏な想像を掻き立てる。
「……チェキ撮る?」
冗談のつもりだったけど、ラブっちはブンブンと髪を振り回して全力で拒否った。
だよね、なんか他のものも映りそうだもんね。
「よーし、それじゃ暗くなる前に入るぞー」
「あ、うちパス」
「なんで⁉」
「チェキはプラちゃんに託します」
「撮影係まで⁉」
ラブっちは青ざめた顔で水色のチェキをプラっちに渡す。
受け取ったプラっちは不服そうに唇を尖らせているけど、知ったことか。それよりも気になるのはナルっちだった。
「あんたはどうすんの? 行く?」
「私は行くわ。確かに不気味だけれど、それ以上は何も思わないし」
ここで大きなため息をついて、言葉を区切ったナルっちは次に尤もなことを言い出した。
「それよりも怖いのは、プラさんを野放しにすることですから」
「確かに言えてる」
すんごい納得がいって、うちは首を縦に振る。いつだって、バカの制御が一番大変なのだ。誰が行くかは決まりつつあったが、やっぱり全員で行きたいプラっちはラブっちに絡んでいた。
「ねぇ、一緒に行こうよぉ~」
「むりむりむり! わたし、こういうのほんっとにむりなのぉ!」
「大丈夫だって。なんかいたら、うちがこのチェキで撮影して、写真に封印して……」
「それ以上は冗談でも言わないで……っ!」
かつてないほどの迫力を放つラブっちに、「お、おおう」と尻ごみするプラっち。
これ以上はごねても無理と悟ったのか、プラっちはあっさりナルっちと一緒にビルに入っていった。手を振って見送ると、途端に静かになる。
ラブっちが肌寒そうに腕を擦る。風が出てきたことを抜きにしても、なんかこのビルの周りは夏とは思えないくらいひんやりしている。
こんなに冷たかったっけ?
静かだからこそ、余計に肌寒さが際立った気がする。
誰かが隣にいる状況でこんなに静かなのは、合宿旅行始まって以来だな。そう考えてたのはラブっちも同じみたいで、困ったような微笑を浮かべていた。
「プラちゃんがいないと静かだね」
「そうね。なんだかんだ、あいつのバカさ加減に救われてたんだなー」
「ふふっ、山登りの時とかね」
「ねー、うちほんとにその時の記憶ないんだけど、ブラジャー振り回してたってマジ?」
「ほんとだよ! もう正気に戻らないんだって、絶望したんだから!」
「絶望って。言いすぎでしょ」
――――あれ。なんだろうな、この感じ。
喋っていないといけないような。黙ってしまったら、何か恐ろしいことが起こるような。
そんな意味の分からない予感が背中に張り付いている。最初はそうでもなかったのに、時間が経つにつれて、どんどん静寂への恐怖が膨れ上がっていく。
向かい合って話していく内に、ラブっちも同じ感覚に陥ってるのが分かった。
「ていうかさ~、こっから駅までどのくらいだっけ?」
「んーうろ覚えだけど、地図だと10分か15分くらいだね~」
「そこそこ離れてるねー。あー、あいつら早く戻んないかな」
「……ねぇ、メンちゃん」
「……なに」
周囲に、人気は無い。
うちら以外、誰もいない。
駅から10~15分のはずなのに。まるで廃ビルが放つおどろおどろしい雰囲気が人を避けさせているみたいだ。
観念したかのように、ラブっちは目に涙を浮かべて肩を落とした。
「やっぱり、わたし達も行こっか~~」
「ここにいるよりマシな気するよね~~」
怖がりあるある。
参加しないで待ってる時の方が、逆に怖くなってくる。
結局、ひと足遅れて、うちらはプラっちと合流すべく廃ビルに突入した。
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