第26話 最速で鳴きまくりJK

 麻雀は難しい役を揃えたら勝つゲームじゃない。如何に速く和了あがれるかを競うゲームだ。


 もちろんタンヤオとかピンフとか、国士無双なんて役満出せたらそれに越したことは無い。でも麻雀はポーカーと違って――――役無しブタでも勝てるから、良いんじゃない。


「リーチ!」


 うちは魔法の呪文を唱えて、点棒を支払う。うちの手牌は何の役も無い、4面子雀頭の形になってるだけの役無し。リーチはそんな役無しを1翻の役に変えてくれる魔法の言葉だ。


「ロン。1千点」

「はははっ、参ったなこりゃ」

「そんな安手で勝って嬉しいのかよ、嬢ちゃん⁉」

「うん、う・れ・し・い♡」


 優越感を一切隠さずに、にんまり笑う。オッサン1は「ぐぬー」と頭から湯気を出し、オッサン2は「次は勝つぞ」と息巻いている。


 うちはこらえることなく声に出して笑った。

 なんだ、このオッサン達良い人じゃん。少なくとも今までのオッサンと違って、寒いギャグかまし続けたり、胸ガン見してきたり、負けたら声を荒げたりしない。


 これまでの雀荘と違って、すごく自然体で打てていた。


「でもほんとすごいね、国枝ちゃん。すぱすぱ和了あがりって、もう4局目だよ」


 ぅふぁーん!

 春木くんのイケボが耳に入り込んで、蕩けそうになる。崩れ落ちそうになるのを必死でこらえて、手を横に振る。


「そ、そんなことないよ。運が良かっただけ」

「運も実力の内でしょ」


 さらりと笑顔でそーいうこと言っちゃう春木くんに百点をあげたかった。いやもう同じ卓にいてくれるだけでうちのテンション爆上げなり。


「それだと春木、お前が一番弱いってことになるぞ」

「ははは、違いない!」


 ちょっとオッサンズ、水差さないでよ⁉

 うちが睨みつけていたら、春木くんが「そうなんだよなー」と言いながら卓に突っ伏した。


 そして突っ伏したまま顔をこちらに向けて、上目遣いで尋ねてくるって、やっばカッコカワイイ。胸がキュンキュンし過ぎて、心臓飛び出そうだった。


「ねぇ、なんかコツとかあるの? 秘訣とかさ」

「ひぃや⁉ そんな⁉ コツってほどじゃないよぉ……」


 うわ露骨に声が裏返った、恥ずっ! 人差し指をツンツンと突き合わせて、恥ずかしさを誤魔化した。


「えー教えてよー」

「だめだめ、ほら次! 4局目始めましょ⁉」


 甘えた声を出すな、ときめいちゃうでしょうが! うちは手牌を崩して、牌のシャッフルを始めたことで、話をはぐらかした。


 でも、本当にコツとか秘訣とか、そんな仰々しいものじゃないのよ。


 麻雀は1翻=1点以上の役が無いと、例え4面子雀頭の形に揃えても和了あがれない。でも裏を返せば、その『1点』さえ確保できれば、すぐに和了あがれるということだ。


 確保する方法は二つ。

 一つは魔法の呪文『リーチ』をかける。

 二つ目は字牌を三枚揃える『役牌』だ。


 うちは牌が配られたら、まずはこの二つの内のどちらかを達成するように打つ。

 どれだけ高得点の役を相手が作っていようが、先にこっちが和了っちゃば、こっちのもの。


 そして麻雀にはもう一つ――――役無しを高得点の役に変える魔法がある。


            「  きた  」


 誰にも聞こえず、気づかれず。木の葉が擦れ合うほどの小さな声で呟いた。オッサン1の河に『チュン』が捨てられるのを認めた瞬間、うちは鳴いた。


「ポン」


 三枚の『中』を表示させた状態で、雀卓の端に揃える。鳴いた代償でリーチをかけることは出来なくなったけど、これでチュンの役牌を作れた。


 相手の捨て牌で刻子を作る『ポン』と、相手の捨て牌で順子を作る『チー』は通称『鳴く』と表現される。

 だったら、そこからのうちはもう『鳴きまくり』だった。


「チー」

 4・5・6の順子が出来る。


「ポン」

 萬子の6が三枚揃えられ、


「ロン。1万8千」

 東場4局、うちが『親』の状況で、7点=跳満で和了あがった。


 これまでと変わらず、うちの手牌に役は無い。けれどそんな役無しが跳満という高得点の役に化けた。

『ドラ』という魔法の牌によって。


「うわ、ドラ乗りまくりじゃねぇか⁉」

 オッサン2が驚愕から声を荒げる。


 ドラとは所謂いわゆるボーナスポイント。和了った時に、特定の牌1枚につき1点付与される牌のことを言う。


 ドラには色んな種類がある。

王牌ワンパイ』と呼ばれる、拾うツモすることのできない牌山で唯一裏返っていない『表示ドラ』。更に、萬子・筒子・索子の数牌の内、『5』の絵だけが赤く染まっている『赤ドラ』。

 その他にもカンドラや裏ドラとか色々あるけども、最終的にうちが持ってるドラの数は6枚。


 これでたった『1点』しかなかったうちの手牌に、ドラ6点が加わったのだ。


「さて、それじゃ、次やりましょ?」


 安手でも勝ち続けていれば、ツキ――ドラはいつかやってくる。

 だから言ったでしょ? 麻雀は速く和了った方が勝つんだって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る