第25話 眼福を求めてる

「ん~~、やっぱりテンピンは勝ってもあんまりなぁ」


 涼し気な水色のノースリブワンピースを翻して、夜の駅前を闊歩する。

 あれから3軒の雀荘を巡ったけれど、成果は諭吉が4枚。お小遣いなら十分すぎるんだけど、4人分の飛行機代だとな~。


 雀荘にいるおっさんにスマホを借りて検索してみたけど、やっぱりどれだけ安くても、飛行機のチケットは、1人3万円は必要だった。


「やっと1人分かぁ」

 やっぱり、これも使うしか……っ!


 晴馬くんの写真集を売って手に入れた6万円。そこから、ワンピースを買って残り5万円。


 これを合わせれば合計9万円。3人分のチケットは確保できる。

 あと1人! 後、3万稼げば、みんなで帰れる!


「頑張れうち、頑張れ! うちはすごいんだ、ただの巨乳美少女じゃないんだぁーーーっ!」


 自分を励ましまくって、写真集のお金を使う罪悪感に打ち勝つ。


 苦渋の決断を下したうちは、4軒目の雀荘を探しに駅周辺を走りまくる。ほどなくして、駅から少し離れてるけど、次の狩場が見つかった。案内板によると、このビルの3階に雀荘があるらしい。


 後3万円だ、頑張るがんばるぞ! ……でも、もうオッサンはイヤァ‼

 当たり前なんだけれど、雀荘の客層なんて男ばっか。それも今まで打ってきた人達みーんな40歳以上だった。


 おねがいだから、若い人いて。

 この際、イケメンじゃなくても良……くない! 目が潤いを、美形を求めている。これ以上は限界だった。


 高校受験の時でさえこんな必死に祈ったことないくらい、祈りながら雀荘の扉を開ける。


「おや? これは珍しい。えらく可愛らしいお客さんが来たもんだ」


 この雀荘のオーナーと思しきおじさんが、うちを見て目を丸くする。今までの雀荘でも同じ反応だったけど、この人は言葉遣いが一番きれいだった。


 ひどいとこはいきなり下ネタかましてくるからなー。嬉しい落差に、頬が自然と持ち上がる。


「ありがと。中を見ても?」


 オーナーは快く中に入れてくれた。にしても、ここまで一度も未成年ってバレてないのは喜んでいいの? 複雑な気分だった。


 ナルっち達が入った地下雀荘と比べたら、卓の数は少ないけど、ほどほどに盛況だった。少なくない卓の間を歩いて、客層をチェック。やっぱりオッサンばっかりだ。


「やっぱいないかぁ」


 こっそりバレないようにため息を吐いて――――保養を求めていた目が、釘付けになる。


 大学生だろうか。奥の卓で二人のオッサンと混じって打っている。見渡す限りのオッサン砂漠に現れた、オアシス。


 イケメン成分に飢えていたうちは、躊躇わずに彼のいる卓に近づき、声を掛ける。


「あの、同卓してもよろしいですか?」


 三人麻雀をしていたようだから、席が一つ空いていた。うちはその席の背に手を置いて、至近距離で彼の顔をまじまじと見つめる。


 はぅぅぅ、やっばぁめっちゃ好み!


 クールな切れ長の瞳、すっと通った鼻筋、肌なんて女の子かってくらいスベスベなのが見て分かる。そのくせ髪の毛は子犬みたいにクリクリしてて、柔らかそう。


「えぇっと、別に良いですよ」


 戸惑いを含んだ声音にハッとする。まずい、がっつき過ぎた。のめり込むような前傾姿勢になっていたことに遅れて気づく。


 やばいやばい。咳払いを一つしてから、落ち着き払って席に着いた。

 視線が刺さる感触がして顔を上げたら、オッサン二人が何とも言えない微妙な眼差しを向けていた。


 うちは、おじいちゃんに物をねだる時の孫娘みたいな笑顔で、邪魔者の眼差しを受け流した。


「よろしくおねがいします」

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