第3章 外面と内面は、おおむね反比例 ※メンちゃん視点
第24話 うちがなんとかしてあげる!
地下なのに窓から逃げようなんてほざくプラっち。
威勢の良いこと言ってたのに東場で負けて泣き出したナルっち。
極めつけは、「勝たなくていいんじゃない」なんて言ったラブっちを見た瞬間、思ったね。
もう、こいつら駄目だって。
「うちが何とかしなきゃ……ヤバイ!」
うちは地下雀荘からさっさと抜け出した。そうして薄暗くて、気味悪くて、明らかにまともな奴が住んでないエリアを小走りで抜けようとして……数分経たないうちに全力で突っ走る。
なんか、来る時より怖く感じた。
走れば走るほど、何かに追いかけられてるんじゃないかって訳の分からない想像しちゃう。かといって、後ろを振り返る気にもならない。振り向いた瞬間、追いつかれたり……何もいないって安心した途端、襲われたり……。
「むりむりむり、マジむりぃ!」
そんな不気味なエリアを駆け抜けたら、けばけばしいネオンライトに出迎えられる。歓楽街のエリアは周りに人がいるから、ホッとしたけど、すぐにうんざりした。
「お嬢ちゃんいくら?」「良いバイトあるんだけど」「バーニラ、バニラでアルバイト♪」
うるっさい‼
行きもそうだったけど、めっちゃくちゃ声掛けられる。
そんで声掛けてくる奴、みんな胸見てるし! 魂胆バレバレなんだよ、死ね!
ていうか、制服着てる女子誘うなよ、捕まるぞ!
なんか、来る時より疲れた気がした。
そうして街の中心、駅前に着いた頃には、ヘトヘトになっていた。
「あぁんもう!」と悪態を吐きながら、うちは駅前の広場にへたり込む。
低くなった視界には駅に入る人、駅を降りる人、両方の足がドカドカと行き交う様子が映る。ぼんやり見つめていたら、ふと思う。
……魚みたいだな。
色んな靴を履いてる足が、色んな鱗をまとった魚のように見える。爪先が頭で、踵が尾ひれ。駅に吸い込まれていく魚群と駅から吐き出される魚群を眺めていると、まるで自分が海の底に座ってるみたいだった。
「静かだなぁ」
重なる足音が妙に遠く聞こえる。本当に海底にいるみたいだ。そのうち、路面からゴボゴボ泡が出たりして。そう思ったら、本当に体が海水に包まれてる感覚がする。
「……つめたいなぁ」
肌寒さから、腕を擦った。さっきとは打って変わって、誰も声を掛けてこない。
……そういえばこの3日間、一人になった瞬間なんて無かったな。
プールに入った時も、バイキングの時も、エステの時も、麻雀で稼いだ時も、お風呂に入った時も、いつだって傍にはあの三人がいた。
3日前、この駅に降りた時だって。期待に目を輝かせて、4人でこの駅に降りた時のことを思い出す。気づけば、ハハッと口の端から自嘲がこぼれていた。
「来た時より、さみしいなぁ」
どんだけ駄目な奴らでも、うちにとっては大切な友達だ。
帰る時は、また4人揃って、この駅に入りたい。
「よし!」と膝を叩いて、飛び跳ねるように立ち上がる。
「ひと肌脱いでやろうかな」
腕を回して張り切っていたら、視界の端にブラウスの袖が入り込んだ。
あっ、とここで今更気づく。
「服変えないと、いやその前に着替え買わなきゃ、でもお金……」
うちはそこで思いっきり眉間にしわを寄せる。お金は無い訳じゃない。ただこのお金を使うのは、うちにとって辛酸をなめるに等しい行いだった。
「うぅぅ~~~」
唸りながら、スカートのポケットから6万円を取り出す。そのお金は、かつてのうちのバイブル『会場限定版・朝倉晴馬セクシー写真集Verずっとあなたのそばに』の成れの果てだった。
「うにゃぁぁぁ……」
かけがえのないものを失った苦しみが甦って、たまらず悶える。
また現実逃避で猫になっちゃいそうだ。文字通り頭を抱えながら、たっぷり苦悩した末に、
「ごめん、晴馬くん!」
大好きな彼に謝りながら、うちは駅ビルのアパレルショップに駆け込んだ。
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