第14話 喧嘩はくだらない事ほど引きずる
公園の傍らにひっそり佇む屋台の中、横並びに座った私達は肩を突き合せながら、ラーメンをごちそうしてもらっていた。
「いやーおっちゃんありがとねー、ほんと助かったよ!」
「カカッ、気にせんどって。腹減ってへたれたガキ見過ごしたら、何のために屋台引いてんのか分からんたい」
右端に座っている私の隣でプラさんがラーメン屋の店主と軽快に談笑している。私はお鉢に視線を戻し……こってりと泡立つ豚骨スープに食指が止まる。
これ本当に食べてよいものなの⁉
ラーメンってこういうものなの⁉
私はまた不安を晴らすためにプラさんやラブさんの様子を伺い……またお鉢に視線を落とす。
いくしかない。意を決して私はお鉢にお箸を滑り込ませ、口元へ運んだ。
「っ! ……おぃ、しぃ」
麺に絡んだ濃厚なスープが山越えを果たした身体に沁み込んでいく。口の中いっぱいに広がる豊潤な豚骨の香りが疲弊した心を、喜色に染め上げてしまう。
「私、ラーメンを初めて食べたけれど……すごく、おいしぃ」
「でっしょーーー‼ いやぁ、これはおっちゃんの屋台を見つけたあたし、お手柄っしょ~!」
「――ラーメン初めてとか信じらんない。あんた何食って生きてきたのよ」
プラさんの笑顔が固まり、店主は「ブッ」と吹き出した。私は垂れた眦をキリッと吊り上げて、左端で頬杖をついている……メンさんを見やった。
ほんっとうにこの人は……っ!
ここに来る前のやり取りが駆け巡って、私はふつふつと胸の中が沸き立った。
「山の中でブラジャー振り回してた人に、私が食べてきた物をどうこう言われたくありません」
「はっ⁉ え、なにそれ⁉」
「ちょーっとちょーっとナルちゃん⁉ それ言わないって暗黙のりょ」
「それ言うならナルっちだって! あの時ホテルに引き返してれば、バスに乗れたし、山越えしなくても良かったのに!」
「おぉーーい⁉ メンちゃんこらメンちゃん! それ言わない約束っしょ⁉」
言わせておけば……っ!
挟まれたプラさんがなだめるけれど、私は衝動のままに席を立つ。険悪な空気が漂ったその時――――ラブさんが遠慮がちに、鉢を店主に差し出した。
「あ、あの、ほんと、本当に申し訳ないんですけど……替え玉良いですか?」
「しゃーねーなぁ。特別サービスだ」
勿体ぶった言い方をしつつ、屋台でしっかり湯切りをして、店主は鉢に麺を滑り込ませる。ラブさんは「おいしぃ~~!」と、涙を浮かべながら麺を噛み締めていた。
「「 …………… 」」
すっかり毒気が抜かれてしまって、私は尖らせていた肩を下げる。メンさんも同じ様子で、頬杖をついたまま、無邪気に麺を啜るラブさんを見つめていた。
――ほんとに、可愛らしい人。
ラブさんを見ていると、本当にそう思う。落ちないように頬っぺたに手を添えるところとか、すごく微笑ましい――だからこそ、決意が固まる。
私がしっかりしなければ!
私が、ラブさんをおうちに帰すのよ!
だって私は、この中で一番優れているんだから!
空腹は満たされ、乾いた心は生き返った。同好会のリーダーとして、私は今後の方針をみんなに伝える。
「――警察署に行きましょう。事情を伝えれば、保護してもらえるはず。ご店主、騒がしくしてしまって申し訳ありません。ラーメン、本当に美味しかったです」
「気にせんどって」と店主はからりとした調子だった。
懐の深い人ね……誰かと違って。
視線を感じて見やれば、メンさんと目が合った。私達は互いにまったく同時に「ふんっ」とそっぽを向いた。
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