第5話 ロン・ポン・チー……からのツモ!
「できなーーい! 全然あがれなぁーーーい!」
わたしはうっすら涙を浮かべて、扇風機が付いた天井を仰いだ。
負けが込んだわたしから、プラちゃんは嬉々として点棒を取り上げていった。
「はっはっはー、ラブちゃんもまだまだ初心者(ルーキー)だぜ。毎度毎度稼がせてもらってますわ~」
「プラさん。人聞き悪いから、その言い方やめなさい。お金なんて賭けてないんだから」
ナルちゃんが嘆息混じりにプラちゃんを窘めてる。あと1枚来てたら……そう思うと悔しくてもどかしくて、わたしは「う~」と地団太を踏んだ。
「どんまいどんまい。運が来たら和了れるよ」
「メンちゃぁ~~ん」
収まりの付かない感情を抱えたまま、わたしは隣のメンちゃんの胸に収まる。ぎゅうっと抱きしめて胸に顔を擦り付けたら、メンちゃんの苦笑が上から降ってきた。
「ちょっ、くすぐったいよ。や~めぇ~ろぉ~」
「ラブさんはほんと甘えん坊ね」
「もう慣れたなーこのけしからん光景に」
プラちゃんの言う通り、わたし達4人は3カ月前に比べたらかなり慣れ親しんだ。毎日、放課後4人で集まって麻雀を打ってたらそうなるよね。
今じゃ、お互いのあだ名を呼ぶことに抵抗は無くなってる。ナルちゃんは変わらず『さん』呼びだけど……その呼び方は柔らかい。
――――よし!
わたしはメンちゃんおっぱいから顔を上げると、躊躇なく手牌を崩し、鼻を鳴らした。
「次こそ勝つ!」
「かかってこい、小娘。刀の錆にしてくれるわー」
「プラっち、なんで侍になってんの」
プラちゃんの物言いに笑いながら、メンちゃんが牌をかき混ぜていく。そしたらナルちゃんは冗談めかした微笑を浮かべて、
「
「ポニーテールを
麻雀卓に四つの花が咲き笑う。
なんかいいな、こういうの。
こういうお喋り好きだなぁ、わたし。もう同好会の、この場所特有の空気が学校のどこよりも落ち着くものになっていた。
入って良かったと思いながら、わたしは17枚×2段の山牌を積んでいく。すると不意に、ナルちゃんが「ふぅん」と興味深そうにわたしの手を見つめた。
「ラブさんはもうすっかり麻雀に慣れたみたいね。褒めてあげるわ」
「え? そ、そうかな?」
「そりゃ、3か月毎日うちらと打ってたらそうなるっしょー」
「未だに役間違えるけどな」
わたしは頬を膨らませて、プラちゃんに向かって腕を振り上げる。「ひゃー」と笑顔で悲鳴を上げるプラちゃん。
こんなじゃれ合いを交えながら、わたし達は牌を拾っては捨てていく。局面が進んでいくと静かになる瞬間は幾つかある。
わたしがふと蝉の声を聞いたのは、そんな静寂の瞬間だった。
そっか……もうすぐ夏休みだ。
牌を捨ててから、わたしは窓の外に視線を向ける。
夏の陽はまだ高く、4時間目で授業が終わってもまださんさんと輝いている。耳をすますと、野球部の掛け声とバットがボールの芯を捉えた音が聞こえてきた。
あとちょっとで……合宿旅行かぁ。最初はそれ目当てだったけど、わたしの中ではもうこの場所とみんなが掛け替えのないものにな
「――あっ! ロン! 2千点! タンヤオ+ピンフ!」
雀卓に視線を戻した瞬間、わたしはナルちゃんが捨てた牌を指さした。
間髪入れずにロン和了を宣言! 勝った!
でもナルちゃんはわたしが公開した手牌をしばらく見つめて……苦そうに笑った。
「ラブさん……ピンフは面子に刻子が入っては駄目なんですよ」
「へ……アッ⁉」
言われて、わたしは自分の手牌を見返す。
麻雀の役は『4
雀頭は同じ牌を2枚揃えることなんだけど……この形にしたからって、和了れる訳じゃない。
役によって決まった集め方をしないと点数は貰えないのだ。
『ピンフ』っていう役でやらないといけないことは、さっきの面子を全て1・2・3とか連続した数字で揃える『
なのにわたしは! 3・3・3って同じ牌を揃えた『
「間違えちゃったぁぁぁーーーーーーーーっ‼」
ロンしなきゃ良かったぁ!
後悔後を絶たず。プラちゃんは「しししっ」と笑って、
「それ、ポン! 勝ち急いだな小娘、貴様の牌を貰うぞぉー!」
わたしが捨てた牌でプラちゃんは意気揚々と『刻子』を作った。
「んじゃ、チー。うちはプラっちの捨て牌貰うよん」
今度はプラちゃんが捨てた牌で『順子』を作るメンちゃん。
ま、まずい。『ロン』や『チー』で、みんなどんどん相手の捨て牌で面子を作り始めた!
メンちゃんとプラちゃん。勝敗の行方はどちらか……っ!
「――ツモ。3千点。
ナルちゃんのスマートな宣言が、部室を静寂に満たす。
そんなこんなで、夏休みが……麻雀同好会の合宿旅行が着々と近づいてきていた。
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