【勇者SIDE】見栄を張って最難関クエストに挑む

「だ、大丈夫なの!?」


「何が心配なんだ? アリア」


 勇者ライアンは明らかに焦っていた。自分の有能さを周囲に見せつけようとしていたのだ。付与魔術師【エンチャンター】であるルイドがいなくても、自分さえいればなんとでもある事を証明したかったのだ。


 今までパーティーが上手くいっていた事は全てが自分の力だったのだと本気で彼は思っていたのである。


 それに魔術師として新たにパーティーに加わったメリッサの存在もある。彼はルイドがいる事を目当てにパーティーに入ってきた。


 だが、あんな付与魔術【エンチャント】しか使えない無能に惹かれる要素などない事をライアンは証明したかったのである。


「そんなの当然、ルイド抜きでクエストに挑む事よ。帰ってくるまで待っていた方がいいんじゃ」


「私も同意見です。大人しくルイド様が戻って来られるまで待っていた方が」


 アリアとメリッサはそう主張する。


「うるせぇ! あんな野郎必要ねぇんだよ!」


 ライアンは怒鳴った。


「証明してやるぜ。あいつが、ルイドが必要ないって事を俺様自身の力でよ!」


 ルイド達は怪しげな場所に来ていた。魔界のような不気味な場所である。


 そこには竜が住んでいるとされた。それも竜ではない。竜の中でも最強の竜だとされる。


 暗黒竜バハムートが生息しているとされた。冒険者クエストのランクは一応は最高峰のSランクのクエストだとはされているが、実際のところはSランクでも最高峰。SSランクというランクがあれば間違いなく分類されるであろう、難関中の最難関クエストであった。


「へっ。おいでさったぜ!」


 天空より降り立ってきたのは竜である。雄大な姿をした暗黒のドラゴン。LV99の最強クラスのモンスターである。そのモンスターは恐ろしさすら超え、もはや神々しさすらあった。


 神とすら言っていい、全てのモンスターを超越したモンスターなのである。


 ライアンには自信があった。持っているその剣である。


 その剣の名は『竜殺し(ドラゴンキラー)』と呼ばれる魔剣であった。ルイドが付与魔術【エンチャント】を施した対竜特化の剣である。


剣に付与されている効果は以下の三つである。


『対竜特効』※ドラゴン相手に対する特効効果

『クリティカル率UP大』※文字通りクリティカル率が大きく上がる効果である。

『剣技向上』※剣の腕が上がる


 さらにはライアンが装備している装備も対竜戦に特化した鎧だったのである。こちらにもルイドが付与魔術【エンチャント】でスキルや特殊効果を付与していた。


『対竜ダメージ軽減大』※竜相手からのダメージが大きく減る

『全属性ダメージ減大』※全属性からのダメージを大きく減らす

『自動蘇生』※死亡した場合鎧と引き換えに一度だけの蘇生が行われる、蘇生効果


以上の三つの効果をルイドはその鎧に付与魔術【エンチャント】していたのである。


 こうまで至れり尽くせりだったからこそ、ライアンはバハムートが相手だとしても後れを取る事はないという自信を持っていたのだ。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 竜王と呼ばれる凶悪なモンスター、バハムートが雄たけびを上げる。空気が震撼した。思わずその場で震えあがってしまうような強烈な威圧感だった。


「へへっ。武者震いするなんてよ。俺らしくもないぜっ!」


 勇者ライアンは覚悟を決めた。剣を手に取り、バハムートに挑みかかるのである。


(見ていろよ、そこで)


 胸中で後ろにいる二人に語り掛ける。


(ルイドなんて無能野郎、もう必要ない! 俺様さえいればなんとでもなるって事を見せてやるぜ!)


 そしてアリアの心は自分の方へと向いていくのである。ライアンは都合よくそう考えていた。


「いくぜえええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 勇者ライアンはバハムートに斬りかかっていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る