付与魔術でドラゴンを倒し剣聖を救う
「さて……一体これからどうするか」
俺は思い悩んでいた。あまり勇者ライアンの事を悪く言いたくはないのだが、思えば奴が人格的に歪んでいる部分は多く見受けられた。
今までは俺に利用価値があると思っていたから下手に出ていたのだろう。別れ際に見せた顔が奴の本性だったのだ。
奴の本性を見抜けなかった俺の責任も大いにあった。まだまだ人間的に未熟という事か。
だがこれでいい。あの勇者パーティーから追い出されたのは良い傾向なのかもしれない。流されるように生きてきた自分の人生を見つめ返す良い機会だ。
俺はそう思っていた時の事であった。俺が追い出された街の近くはちょうど火山地帯の近くであった。
「ん?」
「はああああああああああああああああああああああああああああああ!」
声が聞こえてきた。女の子の声だ。金髪の少女がいた。ライトアーマーを着た彼女は冒険者なのだろう。剣を構えて、モンスターと闘っていた。
だが、相手が悪かった。
正気か? ……俺はその光景を見て目を疑った。彼女は間違いなく一人で闘っている。他にパーティーメンバーらしき人物は見当たらなかった。
彼女が一人で闘っていたモンスターはドラゴンであった。
ドラゴン、説明するまでもないだろう。モンスターの中の王。個体によって強さに差はあるが、総じて強力な個体であるという認識で間違いはない。
大抵の場合、Аランクの冒険者数名がパーティーを組んで討伐に当たる難敵である。それでも苦労する相手だ。
間違っても一人で相手をするようなモンスターではなかった。
だが、間違いなく、彼女は一人でドラゴンを相手にしていたのだ。正気の沙汰ではなかった。
馬鹿な、自殺行為だぞ。
だが、彼女は相当な実力者なようだ。ドラゴン相手にそれなりにやりあっていた。
だが、限度があったようだ。
「きゃっ!」
剣が吹き飛ばされる。目の前のドラゴンは健在だ。ドラゴンは一歩、また一歩彼女に歩み寄っていく。
見捨てておく事なんてできるわけがない。
「失敬……そこのお嬢様。この剣を借りてもいいですか?」
俺は足元に落ちている剣を拾った。手に取っただけでわかる。良い剣だ。名剣の類い。
だが、属性もスキルも何も付与されていない。無属性の名剣、といった認識だ。
借りてもいいかを聞いたが、借りてはダメだと言われても、無断で俺は借りるつもりであった。無断だからそれはもう奪う、という事になるか? まあいい。そこはこの状況ではあまり重要な事ではない。
「え? あ、はい……」
彼女は答える。呆気に取られているようだ。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ドラゴンが吠えた。彼女に襲い掛からんとしている。もはや時間がない。
「付与魔術【エンチャント】」
俺は拾った剣に付与魔術【エンチャント】を施す。相手は火属性の竜、レッドドラゴンだ。その事を念頭に入れて付与魔術【エンチャント】を施さなければならない。
『対竜特効付与』※竜に対して効率よくダメージを与えられるスキル。
『水属性付与』※火属性の相手に対して有効な水属性の効果
『剣技向上』※剣の素人でも達人レベルの剣技が身につく効果。
俺は一つの武器や防具に対して、最大三つまでの効果やスキルを付与する事ができる。それが付与魔術師【エンチャンター】としての俺の能力だ。
「よし……」
付与魔術【エンチャント】は問題なく施せた。ただの無属性の剣からは並々ならぬ力を感じる。
俺は剣を構える。本来は魔術師である俺は剣による近接戦闘は専門外だ。しかし『剣技向上』のスキルを付与した今、剣の達人並の剣技が身についている。
自分で言うのもなんだが、それなりに様になっている事だろう。
俺はドラゴンと睨み合う。凄いプレッシャーだ。だが、負けるわけにはいかない。ここで俺が倒れれば間違いなく、後ろで倒れている彼女の命も助からない事だろう。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ドラゴンは咆哮をあげた。炎のブレスを吐いてきた。
「はああああああああああああああああああああああああああああああ!」
俺はその炎のブレスを斬り裂く。行ける。水属性の効果が付与されているから炎のブレスでもかき消す事ができた。
俺は勢いそのままにドラゴンに斬りかかる。
「はあっ!」
俺はドラゴンを斬り裂いた。普通の一撃なら恐らくは倒せない。だが、竜に対する特効効果がこの剣には付与されている。
だから効き目は抜群であった。
ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ドラゴンは断末魔のような悲鳴を上げ、果てる。
「あなたは……一体」
金髪の少女は呆気にとられたような顔をしていた。
「俺の名はルイド。ルイド・アーネンエルベ。ただの付与魔術師【エンチャンター】です」
これが俺と剣聖エアリスとの出会いであった。
この出会いが俺の運命を大きく変えていくきっかけになるとは、その時はまだ理解していなかったのである。
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